第六話 リードハンド
注意
この文章は作者が書いた文章をAIに添削してもらった上で投稿しています。
間違っても作者一人で作ったものではありませんので勘違いなきようお願いいたします。
『おいおい、頼むぜ?』
ハチローは肩を竦める。
『引退したオッサン相手にそのザマじゃ、
いよいよ打つ手がなくなるぞ』
僕は床へ倒れたまま、
目の前の現実を見上げていた。
『来いよ』
そう挑発する男は、
間違いなく僕より強い。
『……あんた、そんなに強かったのか』
『一応な。
元プロだ』
『プロ……階級は?』
『クラウン級』
ハチローは鼻を鳴らした。
『本当はゴッドまで行きたかったんだがな。
途中で頓挫した』
『あんたが……?』
思わず聞き返す。
こんな化け物みたいな男でも、
届かない場所があるのか。
『ああ』
ハチローは静かに笑った。
『才能の壁にぶつかった』
その言葉には、
妙な重みがあった。
『自分じゃないって、
思っちまったんだよ』
『自分じゃない?』
『“最強”に相応しい人間が、って意味だ』
そこでようやく理解した。
この男は、
本気で最強を目指していた。
遊びじゃない。
夢物語でもない。
人生を賭けて、
その場所へ辿り着こうとしていたんだ。
『いいか、リガ』
ハチローの目が、
真っ直ぐ僕を射抜く。
『お前には才能がある。
……俺なんかより、ずっとな』
『……』
『だが、それでも上には上がいる』
低く、
重い声だった。
『そいつらを倒すには、
天才を超える必要がある』
『天才を……超える?』
『ああ』
ハチローは言い切った。
『そのために必要なのは、
誰よりも“限界”を知ることだ』
『限界……』
その言葉を噛み砕こうとした瞬間――
パンッ!!
ハチローが両手を叩いた。
『っと、湿っぽい話は終わりだ!』
空気を切り替えるように、
彼はニヤリと笑う。
『さあ練習再開!
俺のことより、
まずは自分に集中しやがれ!』
◆
僕は気分が乗らなかった。
だが――やるしかない。
焦燥に背中を押されるように、
無理やり闘志を燃やす。
『ほらほら!
ガードがザルになってるぞ!』
ハチローの怒号が飛ぶ。
『次!
攻めのターンだ、切り替えろ!』
僕は即座に意識を切り替えた。
防御主体から、
攻撃主体へ。
そして――
強烈な一発をミットへ叩き込む。
『おっと!』
『ハチローさん……』
僕はジャブとストレートを交互に打ちながら、
彼へ問いかけた。
『あんたの言う“才能”が、
いまいちわからねえ』
『あ?』
踏み込みながら、
一直線にストレートを撃ち抜く。
だがハチローは、
それをミットで受け流しながら身体をずらした。
『前に言ってただろ。
お前には才能があるって』
右フック。
しかし、
それも空を切る。
『だから教えてくれよ』
僕は拳を振るい続ける。
『僕はどうすれば、
“最強”になれる?』
その瞬間。
ハチローの動きが、
ほんの一瞬だけ止まった。
僕はそこを逃さず、
さらに拳を振るう。
――だが、当たらない。
『……』
彼は目を見開いたまま、
無言で僕を見つめていた。
まるで、
予想外の言葉でも聞いたみたいに。
『少しくらい答えてくれよ』
僕は拳を握る。
『僕は――本気だ』
沈黙。
そのあと、
ハチローは複雑そうに笑った。
『最強、か……』
彼は小さく息を吐く。
『果てしなく遠い道だぞ』
『そのうち慣れる』
僕は淡々と答えた。
『もともと刺激が欲しくて、
ここに来たんだ』
そして続ける。
『あんたの言う最強って、
きっと辛くて、痛くて、苦しい道なんだろ?』
『……』
『なら、むしろ好都合だ』
僕は拳を握り締める。
『それがないと、
僕には生きてる感じがしないから』
純粋だった。
打算も、
冗談も、
虚勢もない。
ただ本心から、
僕はそう言った。
直後。
ハチローの空気が、
一瞬だけ凍りつく。
――それに気づいたのは、
少し後になってからだった。
◆
それから一時間ほど。
僕は攻守の切り替えを延々と叩き込まれ、
意識も身体も擦り切れそうになっていた。
『よし、次だ』
ハチローはミットを外すと、
バンテージ装着用マシンの前へ向かう。
そして、
黒いグローブを両手にはめた。
『今日のメインディッシュを始めるぞ』
その言葉を聞いた瞬間。
彼の空気が、
また少し変わった気がした。
『リガ。
ジャブとパーリングの話は覚えてるか?』
僕は頷く。
『なら、“前手”って言葉は聞いたことあるか?』
僕は首を横に振った。
『まあ、そうだよな』
ハチローは苦笑しながら、
軽く構えを取る。
『リードハンド――つまり前手だ。
お前は左構えだから、使うのは右手になる』
『右手を?』
『ああ』
彼は強く頷いた。
『前手ってのはな、
ただのパンチじゃねえ』
ハチローは右拳をゆっくり突き出す。
『触る。
邪魔する。
迷わせる。
組み立てる』
拳が、
僕の視界の前で揺れた。
『そして――奪う』
『奪う?』
『相手のリズムだ』
彼は静かに半身になる。
『半身になれ。
それと、左手は禁止だ』
『は?』
『右手だけでやれ』
それが――
この日、
僕が叩き込まれることになる
奇妙な地獄の始まりだった。
『防御!!』
ハチローの怒号が飛ぶ。
僕は反射的に右手を振るう。
――弾ける。
拳同士がぶつかる乾いた音。
『遅ぇ!!』
次の瞬間、
ミットが額へめり込んだ。
『がっ!?』
『止まるな!!
次ィ!!』
防御。
ジャブ。
防御。
ジャブ。
その繰り返し。
単純で、
地味で、
終わりが見えない。
――だが。
この時の僕はまだ知らなかった。
この“前手”一つが、
後に僕の運命を大きく変えることになるなんて。




