第十八話 帰り道
注意
この文章は作者が書いた文章をAIに添削してもらった上で投稿しています。
間違っても作者一人で作ったものではありませんので勘違いなきようお願いいたします
二時間が経過した。
僕とハチローは、バロットジムで何人かの選手たちと言葉を交わしていた。
『お前、本当にはじめたてか?』
『素人のくせに根性あるな!』
『ラウズさんに一発入れただけでも、このジムじゃ英雄だからな!』
『そうか』
他愛もない会話だった。
それでも、僕にとっては大きな収穫だった。
強い人たちに認められた。
ただそれだけのことが、不思議と嬉しかった。
『ふぁぁぁ……』
思わず大きなあくびが漏れる。
『疲れた……』
スナガ駅を通り、帰りも地下鉄に乗る。
座席へ腰を下ろした僕は、大きく背伸びをした。
窓の外には、地下鉄特有の真っ暗な景色が流れていく。
『今度は……絶対勝たないとな』
ガラスに映る自分の顔を見つめる。
少しだけ涙目になったその顔は、あくびのせいなのか、それとも悔しさのせいなのか、自分でもよく分からなかった。
◇
アルグジムへ戻る頃には、辺りはすっかり夕暮れに染まっていた。
『そういえば……病院へ行けって言われたよな』
ハチローの言葉を思い出す。
そういえば、ハチブンジの様子も気になっていた。
僕は荷物を部屋へ置くと、そのまま病院へ向かって歩き出す。
今日一日で起きた出来事を思い返しながら。
初めて知ったニューボクシングの世界。
ラウズという圧倒的な実力者。
そして――
自分の弱さ。
胸の奥には悔しさが残っていた。
それでも、不思議と足取りは軽かった。
もっと強くなりたい。
その気持ちだけは、さっきよりもずっと強くなっていた。
十五分後。
僕は病院のセキュリティゲートを抜け、ハチブンジの病室へ入った。
『あら、リガ!』
聞き慣れた声が僕を迎える。
だが、次の瞬間。
ハチブンジの表情がふっと曇った。
『……またボロボロになってる』
ベッドから飛び降りると、慌てて僕のもとへ駆け寄ってくる。
『想像はしてたけど……ひどい怪我ね』
『二日もすれば治る』
僕は強がるように答えた。
『バカね』
ハチブンジは僕の額を軽く小突く。
『強がったって傷は治らないわよ』
そう言うと床頭台から救急箱を取り出し、消毒液とガーゼを手際よく並べ始めた。
『パパもパパよ』
僕の腕へ消毒液を塗りながら、小さくため息をつく。
『こんな怪我のまま帰すなんて、選手を大事にしてるんだかしてないんだか』
『……痛い』
『我慢』
即答だった。
ハチブンジは慣れた手つきで、腕、頬、額へと次々に包帯を巻いていく。
その動きには迷いがなかった。
『で、どうだったの?』
『結果?』
『……ま、聞くまでもないわね』
僕は少しだけ俯いた。
そして、ゆっくりと口を開く。
『惨敗だった』
『自分がどれだけ弱いのか、嫌というほど思い知らされた』
病室に少しだけ静寂が流れる。
『……そうでしょうね』
ハチブンジは優しく笑った。
『初心者なんて、みんな最初はそんなものよ』
『わからなかった』
僕は天井を見つめる。
『ニューボクシングは喧嘩とは違うって、頭ではわかってた』
『でも』
『思ってたより、ずっと深い世界だった』
『深いなんて、まだ入口よ』
ハチブンジはどこか嬉しそうに笑う。
『これからもっと意味わかんなくなるから』
『そうなのか』
『そうよ』
僕は少し考え込んだ。
『なあ』
『どうしたら強くなれる?』
『ニューボクシングで一番大事なものって、なんなんだ?』
ハチブンジは腕を組み、小さく目を閉じる。
しばらく考えたあと、一つの答えへ辿り着いた。
『キーパンチ、かも』
『キーパンチ?』
『強い人が必ず持ってる』
『勝つための軸になるパンチ』
『軸……』
『それがキーパンチ』
『少なくとも』
ハチブンジは真っ直ぐ僕を見る。
『強くなりたいなら、早いうちに知っておいた方がいいわ』
僕は小さく頷いた。
『なるほど』
『キーパンチか』
胸の中で何かが繋がった気がした。
『ありがとう、ハチブンジ』
『今なら何か掴めそうな気がする!』
勢いよく立ち上がる。
そのまま病室を飛び出そうとした。
『ちょっと!』
『どこ行くの!?』
『ジム!』
『これから練習する!』
『アザだらけじゃない!!』
ハチブンジは呆れたように叫ぶ。
『もう、人の話全然聞いてない!』
『ちょっと待ちなさいよー!!』
僕は笑いながら病院を飛び出した。
自動ドアが静かに開く。
夕暮れの風が頬を撫でる。
ジムへ向かって走り始めた。
ーーその時だった。
背筋を、冷たい何かが走る。
『……?』
僕は足を止めた。
誰かに見られている。
そんな感覚だった。
『随分とご機嫌だな、リガ』
聞き覚えのある声。
ゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは――
かつての知り合いだった。




