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NEU BOXER  作者: 乙籠一
17/26

第十七話 ハリボテチャンピオン


注意

この文章は作者が書いた文章をAIに添削してもらった上で投稿しています。

間違っても作者一人で作ったものではありませんので勘違いなきようお願いいたします。



僕は殴った。


殴って。


殴って。


殴りまくった。


結果――


一発も当てられないままスパーが終わっていた。


あっという間の十五分だった。


『ぐはっ!』


僕の拳はことごとく空を切る。


そのたびに、


ミルゼードの石みたいに硬い拳だけが僕の体へめり込んだ。


『驚いたな……』


ミルゼードが息を吐く。


『あれだけパンチを打ち込んだのに、ケロッとしてやがる……!』


否。


ダメージはあった。


それも肉体以上に。


心の方へ。


『悔しい……』


言葉が漏れる。


悔しい。


悔しい。


悔しい。


頭が真っ白だった。


何もできなかった。


本当に。


何も。


その瞬間。


頭の奥で何かが弾けた。


負けた記憶。


潰された記憶。


届かなかった記憶。


今まで味わった敗北が、


濁流みたいに押し寄せてくる。


『こんなに……何もできずに終わるのか……!』


拳を握る。


震えていた。


実力差を痛感する。


僕は自分をそれなりに強い人間だと思っていた。


少なくとも。


ここまで何もできないとは思っていなかった。


『舐めていたのか……』


そこで初めて理解する。


見誤っていたのだ。


ミルゼードを。


そして自分自身を。


『悪い癖だ……』


奥歯を噛み締める。


『自分を高く見積もる』


『それで、何度も負けてきたんだろ……!』


悔しかった。


腹が立った。


ミルゼードにじゃない。


自分にだ。


何度同じことを繰り返す。


何度同じ場所で立ち止まる。


何度負ければ気が済む。


『おい、リガ!!』


その時だった。


『こっち来い!!』


聞き慣れた怒鳴り声がジムに響く。


ハチローだった。


『お疲れ』


『よく耐えたな、あの猛攻に』


彼から発せられた第一声は労いの言葉だった。


『……』


僕は上手く言葉を紡げなかった。


『なんで……』


『は?』


『なんで、負けたの?』


ハチローは一瞬だけ目を細めた。


『負けてねえだろ』


『たかがスパーだ』


『本番だったら、もう負けてる』


それでも僕の気持ちは変わらなかった。


すると。


ハチローがニヤリと笑う。


『じゃあ教えてやる』


『お前の敗因は積み重ねの不足だ』


『積み重ね……?』


『ああ』


『強い奴はガキの頃から積み上げてる』


『逆にお前はどうだ?』


僕は黙り込む。


『始めてまだ間もない』


『今のお前はライト級王者じゃねえ』


『ハリボテチャンピオンだ』


その言葉が胸に突き刺さる。


悔しかった。


だが。


反論はできなかった。


『俺はな』


『ハリボテのまま消えた奴も見てきた』


『本物になった奴も見てきた』


ハチローは肩を竦める。


『諦めるか?』


『いや』


即答だった。


ハチローは満足そうに笑った。


『そうか』


『だがな』


『ここで諦めたら本物のハリボテだ』


『練習から逃げるなら好きにしろ』


『誰も止めねえ』


僕は拳を握る。


負けたくなかった。


逃げたくなかった。


『……』


『覚悟は決まったか?』


『ああ』


僕は頷く。


『やるよ』


『この練習から逃げたくない』


『言うじゃねえか』


ハチローは親指でリングを指した。


『じゃあ行ってこい』


『これからビシビシしばいてやる』


僕は小さく笑った。


そして――


次のスパー相手。


『“ボックスマン”ラッド』


その男へ向かって歩き出した。


見た目は段ボール箱を被った男だった。


正面に開けられた二つの穴。


その奥から、野獣みたいな鋭い眼光が覗いている。


『……』


僕とラッドは黙々と拳を交わした。


殴る。


避ける。


殴り返す。


互いに拮抗していた。


だがーー特に大きな見せ場もないまま、スパーは終了した。


(強い……)


額の汗を拭う。


(だが、なんだ……?)


僕はラッドの背中を見つめた。


(不気味だな……)


その後も休む暇はなかった。


ウェルベロー。


ステラ級の実力者たち。


名の知れた強豪たちと次々に拳を交わす。


そしてーー


気づけば六時間が経過していた。


『ハァ……ハァ……』


ジムの外。


僕は壁にもたれながら呼吸を整える。


だが。


整わないものが一つだけあった。


『……くそ』


視界が滲む。


気づけば涙が零れていた。


悔しかった。


ただただ悔しかった。


『おいおい、何してんだよ』


ハチローが歩いてくる。


僕は俯いたまま何も言えない。


『ふーん』


ハチローは鼻を鳴らした。


『お前、泣くんだな』


『笑うなよ……』


思わず声が漏れる。


『こっちは真剣にやったんだ……!』


『案外負けず嫌いなんだな』


ハチローは肩に手を置いた。


『感心したぜ』


『嫌いなんだよ……』


僕は歯を食いしばる。


『負けるのが……』


『だろうな』


ハチローは笑った。


『でなきゃギャング一つ潰そうなんて馬鹿な真似できねえ』


『うるせえよ』


僕はその手を払いのけた。


するとハチローはまた笑う。


『悔しいか?』


『悔しいよ』


『どのくらい?』


僕は少し考えた。


そして答える。


『腹の底が煮えくり返るくらい』


『そうか』


ハチローは空を見上げた。


『だったら誰よりも練習するんだな』


静かな声だった。


『勝つには対価がいる』


『わかってる』


『なら積み上げろ』


ハチローは短く言った。


『悔しさってのはな』


『前に進む奴だけの特権だ』


『……』


『怪我治してこい』


そう言って踵を返す。


そして振り向かないまま続けた。


『それと娘にも会っとけ』


『あいつ、お前が負けて帰ると意外と機嫌いいぞ』


『なんだよ、それ』


思わず苦笑が漏れた。


ハチローは肩を揺らす。


『知らねえよ』


その笑顔は――どこか嬉しそうだった。

 

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