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A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第四章 太陽の光
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31話 交差

 墓を見ている。

 そう古くない小さな墓だ。

 石碑の根本辺りは、地面から苔が移っていて湿っている。

 そして、肝心の碑文だが――


「この名前……似た形をどこかで見た気がしなくも……っ!?」


 そこに彫られていた名前に目を通した瞬間、イオは耐えがたい頭痛に襲われた。高圧の電流を流されているみたいに痺れと痛みが交互に打ち寄せて来た。

 別の方法で表すなら、頭蓋骨に釘でも刺されているかのようだった。


「が……ぁ、っ……!」


 しばらくすると痛みの形が変わった。

 脳を刺されているような感覚から、脳を引っ張られているような感覚に変化した。さっきよりはいくらかマシになったが、それでも想像を絶する苦痛であることに違いなかった。


 どうにか頭痛を解決する方法を探したいが、これでは思考の統制が取れない。

 イオにとっては、真っ直ぐな糸を編もうとしてもすぐに鋏で裁ち切られてしまうようだった。


「い、でぇぇぇ……っ!!!!」


 そうして自傷した方が幾分か楽に思われるほどの酷い荒波に揉まれていると、彼の『耳』に小さな声が聞こえてきた。

 よく耳を澄ませないと聞こえない小さな声だ。

 そして、その声の主は女。聞こえてくる方向は土の下からだった。


『……え、て……?』

『はあ、はあ……何だ!? 聞こえねぇぞ!』

『ひ……ぶ……』

『あぁ……!? ワケ、っ……分かんねぇ……』

『――起こして』


 なぜか最後の言葉だけ、はっきりと聞き取れた。

 精霊による助力か、それともイオの頭痛が一瞬だけ晴れたのか。どちらによるものか彼にとって定かではなかったが、これだけは言えた。


『起こせば……っ、良いんだな!?』


 声に従うしか道はないということだ。

 その声を自分の声で遮る度に痛みは増し、それとは反対に耳を傾けている時だけ痛みが和らいだ。

 もはや言われるままに動くしかなかった。


「ってか、起こすって言っても……たぶんお前は死体だろうが……いてて……」


 声の発信元を掘り返してみる。

 骨を見るのは怖いから嫌なのだが、頭痛を晴らすためなら仕方のないことだった。


 そして、順調に掘り進めると石棺が見えて、そこにはイオの予想通りに白骨化した死体が一人分だけ入れられていた。

 やっぱり怖くて身震いしたが、今はそんな場合じゃなかった。


『――起こす、じゃなくて、生き返らせる』

『本当に生き返らせていいのか? それで俺の頭痛は治まるのか?』

『うん』

『っ、クソが! どうにでもなれぇ!!!!』


 こういう時に発揮される絶大な力を、世間では火事場の馬鹿力とでも言うのだろう。頭痛に苛まれていたイオが指先に意識を集中させた途端、全身から集まった莫大な魔力が骨に流れ込んでいった。

 いつもの何倍もの早さで。

 そして、それだけではなかった。


「……っ!? これ大丈夫か!?」


 なんとイオの体が、無意識的に周囲から魔力を吸い取り始めたのだ。

 大気、土壌、死体……あらゆる物に癒着している小さな魔力を、なぜか唐突に、そして強引に一つの死体に集積し始めたのだ。


(やべ……意識が、飛びそ……う……)


 死体の蘇生をする上でイオは活動限界を越えてしまったようで、彼の魔法は強制的にシャットアウトさせられた。

 そして、それに連なるように周囲からの魔力の供給も止まり、やがて術式を保たせるだけの魔力も維持できなくなってしまったのだった。

 それから十数秒後、蘇生活動は停止した。


「はあ……はあ……頭痛は、治ったか」


 息をぜえぜえ吐きながら、イオはペタリと地べたに座り込んで自身の状態を確認していく。

 その後に石棺の中を覗き込んだ。墓の下部にぽっかりと空いた穴だ。

 そこには先程まで骨が入っていたが、うまくいけば骨が別の姿に変化しているはずだ。


「おい、生き返らせてやったぞ! 聞いてるか、この悪霊が! 俺は今から……大事な……あ――」

「悪霊とは失礼な……うぅ~ん、よく寝た! って、今は夜なんだ」

「お前……いや、あなた……あれ、俺……俺は……」

「蘇生お疲れ様。いや~君に賭けた甲斐があったもんだよ~」


 イオの心臓が止まりそうになった。

 嬉しさとも驚きとも分からない、何だか言い表せない感情に彼は包まれたのだった。


「――なんで、ブラキウムさんが……」

「あ、それ偽名だよ。本当の名前はザニアだから、そう呼んで」

「え、え……ってか、俺、記憶喪失でした!? なぜか今さっき全部思い出しましたけど!?」

「そうだったみたいだね。ホントに心配したよ。まさか精霊を託した時に、君の記憶が運悪く吹き飛んじゃうなんてね。『耳』の負担を甘く見てたよ」

「……!? っ!? えぇ!?」


 墓穴から全裸で黒髪の美女が登場した。

 彼女を見た瞬間、堰を切ったようにイオの脳内に失われていた記憶が流れ込んできた。

 そうだ、全て思い出した。


「――君の協力に感謝するよ。私は死ぬことによって運命から逃れられた」


 ブラキウム――改め、ザニアはイオに歩み寄り、彼のおでこにキスをした。

 その時、彼の視界にザニアの豊かな双丘や見てはいけないジャングルが映り込んだ気がするが、彼は自分の記憶を整理するので頭が一杯だったので、特に何も思わなかったのだった。

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