32話 托霊
「えーっと……えー……うーん……」
「おーい、聞こえてるー?」
唐突に甦った記憶、生き返った全裸の敵、これからの方針。
考えることがあまりにも多すぎて、イオは当然混乱してしまっていた。
「まず俺は、精霊を譲り受けた時のショックで記憶を失くしていて……」
「うん、そうらしいね」
「それからブラキ……じゃなくて、ザニアさんを庇ったのは普通に犯罪だったから、それを帳消しにする代わりに記憶喪失のまま放置されて……」
「ふむふむ」
「それで……ああ、やっちまった……」
「そう、やっちまいましたな~! 私は復活、精霊も回収、二度目の人生を謳歌ってワケだ!」
「…………」
イオはとんでもなくバカなことを、この期に及んで盛大にしでかしてしまったかもしれない。
簡単に説明すると、ザニアはイオの木魔法を利用することで、諜報員としての祖国からのしがらみと、魔法管理局の捜査の手から、なんと死を超越することで免れたという訳だ。
色々とぶっ飛んでいる。
「君の記憶が戻ったんだからさ、それで全部いいじゃ~ん」
「良くないですよ!? 俺の精霊は!?」
「この子はずっと私の支配下にあったんだよ。死ぬ前に君に一時的に預けただけ」
「は!? これから何度も精霊を使う予定だったんですけど!?」
これから大事な局面に差し掛かるというのに、精霊を使えないとなると結構マズい。
どうにかして奪い返さなくては。
「そう言えば、イオ君は何でここに来たの? 死ぬ前の見立て通りに、私が祖国に回収されず共同墓地に埋められてたのは分かるんだけど」
「……いや、これからヴァーゴに行くんで、それでたまたま通り掛かっただけですよ」
「ヴァーゴ? 懐かしいなぁ」
「え? どういうことですか?」
「あぁ、私の身元調査とかしなかったの? 私はヴァーゴの超ウザい女王様の命令でリブラに潜入してたんだよ」
「……その話、詳しく聞かせてください」
イオは、ザニアの目を真っ直ぐ見て言った。
それに対して、彼女は胸を隠すように両腕を組んで見つめ返した。ちなみに上半身は最低限隠せているが下半身は生まれたままの姿である。
羞恥心は墓の中にでも置いてきたのだろうか。
「いいけど、聞いたら驚くだろうなぁ」
「何がですか?」
「実はね……シロンちゃんは私の後輩なの。あっちは私のことを知らないけど、こっちはシロンちゃんの監督をしてたんだよ。ビックリした?」
「しませんよ。だって、シロンはヴァーゴに行ってしまって、それを俺が追ってるんですから」
「へ!? じゃ、じゃあ管理局の皆もこの近くにいるの!?」
「いえ、俺だけしかいません」
「へぇ……え?」
今のザニアは数分前のイオと同じ顔をしている。
訳が分からず呆然としている顔だ。
だらんと開いた口や、大きく見開いた目は彼女らしいものではなく、どこか不細工で面白い。
「誰にも言えませんから」
「二人だけの問題……ってワケか……」
しかし、そんなことを考えている暇はない。
とにかくザニアを押し退けて、イオはヴァーゴに向かわねばならないのだから。
「……私も一緒に行っていい?」
「だから、俺はこれから大事な……って、なんでそうなるんですか!?」
「へへへ、楽しそうだから」
「いや、おかしいでしょう!? 楽しさを求めに行くような場所じゃないですよ!?」
「えー……私がここでイオくんをボコボコにして、可愛くて強い『耳』の精霊を持ち去っても、別にこっちとしては全然いいんだけどなー。君が私の言うこと聞いてくれないなら、そうなっても仕方ないよねー」
「……脅迫、ってヤツですか?」
「違うよ。私の言うことを聞いてくれたら、ちょっと嬉しいなーって」
イオは少しの逡巡の後、不服そうに口を開いた。
そして、ザニアは彼の返答を満面の笑みで受け止めたのだった。
これは一時的だが、協力関係を結んだということで間違いない。かつての敵と手を組むことになった。
「もうどうでもいいや……時間もないですから早く出発しましょうか」
「それなら服を作ってくれない? 胸が邪魔で全力を出せないからさ」
「やりたい放題っすね……」
イオはそこら辺の植物に触れ、蔦を編み、簡易的な衣服を作り出した。
服飾に関しての知識は持ち合わせていないので、胸や腰、首の辺りを整えるのに難儀したが、数分後には何とか様になっているものが完成した。
普段着のような服というよりか、ちょっとダサい寝間着みたいな出来になったが、服がないより随分とマシだろう。
ザニアはイオ製の服をすっぽりと被り、腕を動かして馴染み具合を確認した。
「よし! 準備完了!」
「はあ……あ、精霊貸してくださいよ」
「分かった」
イオはシロンの連れ戻しに向けて、波乱に満ちたスタートを切った。
既に空には月が明るく昇っており、星たちは強く輝いていた。
天気は曇り。三日月の夜だった。




