表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A lot of stars  作者: 赤秋の寒天男
第四章 太陽の光
128/465

25話 火と土の相性

PV数が5000を越えてました

ありがとうございます

 走り、走り、止まることはない。

 地を蹴り、空を掻き、前へ進む。

 彼女の音は着実に近付いている。




 シロンは、太陽のように真っ赤な瞳を輝かせて、リブラ郊外の森をすり抜けるように飛んでいた。

 文字通り飛ぶのである。

 両手を斜め下に突き出して爆風を発生させ、そのエネルギーで枝から枝へ飛び移っているのだ。

 ヴァーゴとリブラの国境付近は鬱蒼と木が生い茂っており、彼女の移動手段として一役買っていた。


「ふぅ……はっ……よっと」


 さも当然かのように飛行しているが、実はこれは人間離れの業だ。

 風向きを読み、的確に自身を運ぶ魔法の爆発力。

 枝から飛び上がる跳躍力。

 それを絶え間なく遂行する集中力と忍耐力。

 どれが欠けても飛行は不可能である。しかもシロンは齢十五にしてそれをやってのける。これを数百年に一人の天才と表さなければ他に何と呼べようか。


「――誰かいるの?」


 森に入ってしばらく経った頃、シロンは微かな物音を聞いて一本の枝にしゃがみ込んだ。幹に手をついて体を支え、近付いてくる音に集中する。

 ドッドッと何者かが地を蹴る音が聞こえたが、しばらくすると消えてしまった。足音が消えるなんて何とも不思議な話だ。

 地上を移動しているなら必ず足音がするはず。


 シロンは引き続き音を探るが、次に音が聞こえてきたのは自分の目の前からだった。

 伏し目がちに物音に集中していたシロンはすぐに顔を跳ね上げて、自分の正面にある枝を見た。そこにいたのが虫や折れた枝なら良かったのだが、彼女の予想に反して枝に落ちてきたのは人間だった。


「おい、こっちは腹減ってるんだぞ」

「はぁ……なんで追ってきたの――」


 その人間は、顔をしかめて不満を露にした。

 その人間は、仮面の下に優しさを隠していた。

 その人間は、シロンが今一番会いたくない少年だった。


「――イオ君」

「いや、同僚が行方不明になったら追うだろ」


 屈んだ姿勢から、シロンは立ち上がった。二つの枝の高低差もあって目線がイオとピッタリ合った。

 彼らが同じ目線に立てたのは、地味に初めてかもしれない。


「……で、管理局から逃げた理由は何だ? 俺で良ければ聞くけど」

「ボクの言うことなんて聞いても分かんないよ」

「まずは話せよ」

「いいや、話さない」

「……じゃあ、どうすれば良いんだ。このまま何の成果もなしに帰れってか?」

「うん、イオ君にはどうにもできない。黙ってボクと別れることしかできないから」

「そんなことあるかよ」

「世界は広いんだよ。どうにもならないことなんて一つくらいある」

「例えば何だ?」


 そう言われたシロンは、また顔を下げた。

 しかし、すぐに顔を上げた。その時の彼女は、今までの彼女とは全く違う表情をしていたので、イオは思わずギョッとして引けを取ってしまった。

 まるで別人と敵対してしまったような気分に陥っていた。


「――イオ君は裏切り者を許せる?」

「裏切り者? 誰のことだ? マイアさんもハレーも一応許したが」

「ボクがヴァーゴからのスパイだって聞いて、それでもボクを許せる?」

「……は?」


 唐突な暴露に、イオの脳は混乱した。

 シロンがヴァーコからのスパイだなんて、そんなことありはずがい。現にそのような素振りなんて見たことないし、彼女が何をしたというのだ。普通の局員と何ら変わらない生活を送っていただろう。

 少しも怪しくないのに、スパイだと?


「お前が……スパイぃ……? はぁ? いつからスパイやってたんだ? もしそうだったとして、俺に何をした? 悪いことをしたのか?」

「管理局に入る前、君と出会うずっと前から。君のことを気に入った人のために情報を流してた」

「……いや、は、はぁ!? な、何でそんなバカみたいなことするんだよ! ってか、そんなことをしておいて、何で今更シロンは逃げるんだよ!」

「知りたい?」

「今すぐ教えろ!」


 最初は二人とも神妙な面持ちだった。

 しかし、イオは酷く激怒し、シロンは驚くほどの冷徹さを見せ、そこには大きな温度差ができてしまった。

 これでは対話もままならない。それに問題の解決たって遅れてしまう。なぜなら融和を拒んで敵対姿勢を取ったから。


 二人は感情をはっきりと表に出して、木の枝の上で睨み合った。

 それから十数秒後、イオの要求を受け取ったシロンは枝から飛び上がり、殴り掛かってきた。


「――知りたかったら、ボクを止めてみてよ」


 顔面に飛んできた拳を避けた勢いで、勢い良く枝から転落してしまったイオ。

 そして、彼に続いて地面に降りたシロン。


 落下の衝撃に身を捩るイオに対して、シロンは全く意に介することなく闘志を向けてきた。

 急に始まった戦闘に理不尽さを覚えつつ、彼は良心からシロンを引き止めにかかろうとした。


「い……ったたた」


 しばらくして、イオは押し潰された蟻のように不格好に立ち上がった。『不死』が働いているため、このような痛みに屈することはない。それでも精神的には結構効いていた。

 それでも、彼の視線はシロンの瞳だけを真っ直ぐに捉えていた。


「ここでイオ君を倒してヴァーゴに帰るよ。死んだフリをするなら今の内だね」

「はは、俺は……っ、生憎……絶対に死ねない。だからさ、だからっ、シロン――」


 文句を吐き捨てたのと同時に、イオは体中から鈍い音を響かせて自己再生を行った。

 骨を継ぎ、肉を繋ぎ、血を通わせた。

 脳内に広がる膨大な倦怠感を抑え込んで、彼はファイティングポーズを取った。


「――っ! ゴチャゴチャ言ってないで、とりあえず俺と管理局に帰ろうぜッッッッ!!!!」


 語尾に力を込めて、イオは瞬間的に獣化した。

 そして、シロンも対抗するように赤黒い火炎を掌から顕現させた。

 どちらも本気でやり合うようだ。


 あまりの熱気に草木は焼け焦げ、小動物たちは逃げ出してしまった。だんだんと気温も上がり、イオたちは額から汗を流し始めた。

 しかし、それでもイオは熱気に耐えた。

 耐えた先に望むものがあると信じて、彼はポーズを崩さなかった。ここから逃げ出すまいと自分に何度も言い聞かせた。


 目の前にいる少女を本気で打ち倒そうと、心の奥底で固く決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ