24話 遠くへ
夕暮れの街は、多くの人で賑わっていた。
仕事帰りの男女、親と買い物を楽しむ子供たち、そして宛てもなく彷徨う浮浪者や不良。この時間は様々な理由により、たくさんの人々が活発に動き回る時間帯なのだ。
そして、イオもその内の一人だった。
「マジで見つからないぞ……シロンは本当にどこにいるんだ?」
どこか遠くにいるであろうシロンに、彼は心細く質問を投げ掛けていた。
しかし、もちろん応答がある訳もなく、呼ぶ声は夕闇の喧騒の中へ消えていった。ここまで来て彼女が見つからないということは、もっと離れたどこかにいるのか、それとも精霊の調子が悪いのか。
イオは管理局の方へ意識を向けてみたが、しっかりと音は聞き取れたので少なくとも後者の理由は排除できるはず。
そこでイオは思い切って、聴覚可能範囲を更に拡大させてみた。しばらくしてリブラのおよそ五十分の一の範囲が精霊の支配下に置かれたのだった。
「流石に頭がズキズキする……ここまでやって聞こえないなら俺の脳味噌が爆発すんぞ……」
比喩なしに『不死』の力がなかったら彼の脳はすぐに限界を迎えて、何かしらの異常を発生させていただろう。
本当に危険な行為だが、これもシロンのためなら仕方がなかった。イオは必死になって音を聞き分けていった。
「違う……違う……ち――――見つけた!」
そして、ようやくシロンらしき音を感知することに成功した。時間にして三十分くらいといったところか。
とにかく彼女の行方が掴めただけ良かった。イオは聴覚可能範囲を一旦狭め、アークトゥルスに報告を入れた。
『あー、あー、聞こえますか』
『よく聞こえるぞい。どうじゃ、シロン君を見つけられたのかね?』
『はい、何とか』
『どこにおった?』
『あ……えっと……俺が連れて帰るんで、安心して待ってて下さいよ。そうだ、俺たちの分の夕食はまだ残ってますよね?』
『――それなら大丈夫だよ!』
『ぬわっ!? ぺ、ペルセウスさん……ありがとうございます……』
『そういうことじゃ。後はイオ君に任せたぞ。応援は要らぬか?』
『はい、大丈夫です。切りますね』
ペルセウスの乱入には驚かされたが、無事に報告を入れられた。これでイオたちの消息が途絶えても、すぐに管理局が動いてくれるはずだ。
ここで彼の行動を見て「一体なぜそんなことをしなければならないのか」と思う人が一人や二人くらい出てくるかもしれない。
しかし、説明は必要ないだろう。
なぜなら行動の理由は明白だったし、イオ自身が説明を体現しようとしていたから。彼の行動を追えばシロンのことも追々理解できるはずだ。
「見つけたは良いが……色々とやばいぞ」
精霊を使役したにも関わらず、彼の捜査が長引いてしまったのには確かに理由がある。
まあ、突き詰めればイオの怠慢ではあるが。
しかし、シロンの居場所を予想したい場合は、普通なら彼女がいそうな場所を候補にするものだ。例えば腰を落ち着けられる場所や、空腹を満たせる場所が分かりやすいか。
そういう訳で、あえてイオが捜査を後回しにした部分があったのだ。
それこそが――
「あそこって……リブラ人は近付かない方が良いんじゃなかったっけ……」
ヴァーゴとの国境だ。
なぜかシロンはヴァーゴへ向かっていたのだ。どんな理由があっても、それが危険過ぎる行為であることに変わりはない。
そんな絶対に止めなければならない奇行を、イオは捕捉してしまったのだった。
「獣化したら何とか追い付けるか……?」
だから、彼は胸に掲げた獣石に触れ、国境に向かって全速力で走り始めた。
こんなことになるのだったら応援を呼べば良かったのではないか、と思うだろう。実際にそうした方が楽だし安全だ。
しかし、それはできなかった。
彼女の奇行を聞いていると、それが無意識に躊躇われたのが正直なところだった。




