21話 お祭り
「そう言えば、ヴァーゴとスコーピオのお祭りって知ってますか?」
「もちろん! 明後日から始まるんだよね! 僕も行きたかったな!」
「用事でもあるんですか?」
「特にないよ! ただ、リブラからヴァーゴへ入るのは難しいんだ!」
「……どういうことですか?」
特訓を終えたイオは、ペルセウスにとある話題を投げ掛けた。
少し前に知った外国の祭りについてだ。
「この国はヴァーゴと仲が悪いからね! よっぽどじゃないと国境は越えられないんだよ!」
「へ~……知らなかった」
元の世界でも、そこまで酷い国境事情はあまり聞いたことがない。もしかすると、この世界で国境封鎖処置は違和感のない行為なのか。
イオはそれについて聞いてみた。
「もし仲が悪くなったら、そうやって国境を閉じられちゃうんですか?」
「いいや、現にリブラからヴァーゴの同盟国であるスコーピオには入国できるんだよ! よーっぽど仲が悪くないと国境は閉じられないの!」
(何があったんだよ……)
どうやら歴史から拭えないような重大な確執を孕んだ問題らしい。普通は物資の輸出入くらい許されるものだが。
「まあ、仲が悪いなら互いに触れないのが一番かもしれませんね」
「……かもね!」
ペルセウスは、少し戸惑いながら返事をした。
◆◆◆
時を同じくして、ヴァーゴ中央宮殿最上部、王の間では――
「情報は入ってきていないのかしら? 私がスコーピオに向かうまで三日しか残されていないのよ」
「特に情報は上がってきておりません」
「妙ね。私への不満を限界まで溜め込んだ革命家たちのやることよ。この私がヴァーゴを離れた瞬間、きっと暴れ出すに違いないわ」
「王の目と耳を総動員しておりますが……そのような情報は掴めていません」
「怯んだのかしら? まぁ、所詮そこまでの存在だったのね。だけど油断はしないわ」
女王が一人の家臣と密談を行っていた。
その空間には彼女たちを除いて誰の気配もない。
そこまでして何を企んでいるのか。
「私は強さを求めているのよ。この国を存続させるための強さを。だから民にとやかく言われる筋合いはないはずよ。それと諜報員たちの召集は済んでいるのかしら?」
「はい、随分と前に祭日までに戻るように言ってあります。そして、その件について――」
「言ってみなさい」
「――ザニアは殺されました」
「情報を漏らしてないでしょうね?」
「そのはずです。ちなみにリブラ管理局のアークトゥルスによって殺されたと報告を受けています。そこにイオもいたと」
「……イオ、ね。一人の少年を連れてくるのにウチの諜報員たちはとっても苦労しているのね。処分は予定通り行うわ」
「日時はいかがいたしましょう?」
「前夜祭当日の朝、宮殿前で絞首が良いわ。見せ終わったらさっさと焼いてちょうだい。あの死臭は苦手なのよ」
いとも簡単に行われた会話だが、はっきり言って異常である。ここまで命を軽く見ている人間は、他を見ても数えるほど存在しないだろう。
人間と呼んで良いかどうかも怪しいところだ。
この女王、見た目は小綺麗で振る舞いは上品であるにも関わらず、精神はこの世界のどの人間よりも劣っているとすぐに分かる。
紛いなく最低最悪の存在だ。
「要件がないなら出なさい」
「承知しました、プロミネンス様」
報告を終えた家臣はやがて立ち去り、この王の間はたった一人だけのものとなった。玉座に腰を掛けていた女王は何を思ったのか、おもむろに立ち上がり窓の外に目を向けた。
眼前には、活気に溢れたヴァーゴ首都の街並みが広がっている。すぐそこまで迫った祭りの準備のために国民たちは忙しく働いているのだ。
その心情がどのようなものであれ、一応は活気に溢れているという形に落ち着いている。
しかし、国民の多くは女王を見ていない。
そして、女王もまた国民の多くを見ていないのであった。
今彼女が見ているのはたった一人の少年だ。
「いつ会えるのかしら、楽しみだわ――」
女王は狡猾な笑みを浮かべ、玉座に戻った。
もう身も心も完全にその少年の虜らしい。
彼女は国民がどうなろうが、少年との未来を望んでいる。
なぜなら少年はこの世界で最も強く、最も未来のある少年だから。
しかも、強さを求め続けている女王は、少年との子供を欲しがっている。
なぜなら今まで産んだ子供たちを越える、最高傑作を望んでいるから。
「――あぁ、イオ」
愛に塗れた吐息を混じらせて、その少年の名前を愛おしく呼んだのだった。




