役立たずのフルンティング
「99%ちょいまでは復元できた。あとはお前とのリンクが再接続されるかどうかだ」
「……フルンティング!」
駆け寄りたい衝動を抑えて、私は作業車の荷台から斜めに伸ばされたクレーンの先の相棒を呼ぶ。
フックで吊られている抜身の剣は無残に腐食し、触れただけで崩れそうな姿になっていた。
「よし、ストップ! そのまま降ろせ」
じれったくなるような低速でクレーンが旋回し、私の前まで剣を運ぶ。
初めて目にした時と同じ、鉄屑と呼ぶのも憚られるような、剣。
『法王の剣』などという仰々しい呼び名とは真逆の、みすぼらしい塊。
法王庁に納められてから私が手にするまでの長い間、古代イングランドの叙事詩に謳われた剣のように、敵を斬る事もできない役立たずと称され、そこからフルンティングと名付けられた剣が、帰ってきたのだ。
その名のとおりの、大きいばかりの駄剣が----。
(いや、お前は役立たずなんかではなかった)
私は手を伸ばす。
刃に指先が触れる。
(お前は、私の相棒……だから、もう一度その輝きを私に示して……!)
その瞬間、刃の奥に小さな点のような光が宿った。
「フルンティング、戻っておいで!」
光点は幾つもに分裂し、輝きを増しながら剣全体に一気に広がる。
剣を吊っていたロープが、弾け飛んだ。
「おかえり……っ!」
目に痛いほどの光を放ちながら、法王の剣は広げた私の両手の間に落ちてきた。
生垣の向こうで息を潜めていた庭師達の声にならないどよめきの中、私は愛剣を一振りする。
準備は整った。
「私はここまでだ」
アンソニーは自分の足元を指差す。
「ここから先、お前達が歩みを進めるたびに踏み締めた土は不浄となる……そんな土を付けて猊下の御前に戻る訳にはいかないからな」
そう宣言すると、くるりと踵を返した。




