封印解除
法王庁の中庭は聖遺物で作られた幾つもの封印によって厳重に囲まれている。
話によれば、一般人の目には単なる小さな庭にしか見えないように偽装されているそうだ。
聖遺物同士を線で繋ぎ合わせると、五芒星の形になりその中心部分が温室に当たる。
温室の入口から中庭の外までは、細い石畳が続いている。
魔女がそこから一歩でも外れれば天からの誅罰を受けるとは聞かされていたが、これまでに石畳から外れた魔女はいないので、それがどんなものなのかは現在まで経験した者はいないはずだ。
即死できればありがたいが、どうせ対した傷にはならないだろうし、少しでも早く死ぬために出撃しているのに、余計な事をしでかしてそのまま地下牢に閉じ込められ無為に過ごすような頓馬はいないだろう。
アンソニーと別れ、普段は遠目に見る事も許されない苔むした聖遺物の横を、私とメリッサは足早に通り抜けていた。
毎回大の男が数人がかりで運んで来るのが嘘のように、背中の剣は重さを感じさせない。
(そういえば、他の庭師の姿が全然ない……こんなの初めてだ……)
魔女の出撃に封印の解除は必須だが、その時は大勢の庭師達が封印の効力を打ち消す儀式だの聖遺物の移動だのを人海戦術でやっていた。
しかし今回は様子が違う。
『ご心配なく。封印の解除は、全て遠隔操作にて行われています』
カーラβの声が突然頭の中で響き、私は危うく石畳に躓くところだった。
『AIって、念話もできるの!?』
『はい、貴女達との通信もこうして可能ですし、貴女達とラボとの会話の中継なども全て私がさせていただきます』
言われてみれば、アンソニーとの連絡の取り方など何も聞いてなかった。
----というよりも、そもそも作戦中に庭師達と連絡を取る事自体がなかったので気にもしていなかったのだ。
『魔女の声の周波数は人間には危険なため、私を経由する事で無害な波長に調整しています』
『あぁ、周波数ね……それでアンソニーは私達とあまり話したがらないんだ』
納得して頷く私に、
『いえ、局長の脳は魔女の周波数に強い耐性がありますので、通常レベルでの接触では問題ありません……これは推測ですが、単に貴女方と会話をしたくないだけだと思われます』
軽く傷付くような事をサラッと言ってくれるAIである。
そして次の瞬間、カーラβの声が僅かに緊張を帯びたものに変わった。
『このラインでストップしてください! 高レベル封印の解除が開始されます……今すぐお二人とも詩編23編をお唱え下さい!』
ピィィィン!
カーラβの声と同時に遥か頭上で小さな金属音が弾けた。
全身が総毛立つ。
例えるなら、自鳴琴が動き始める直前のその刹那のような鋭い響き----。
反射的に見上げた夜空が、眩いばかりの一面の金色に輝き始める。
私達魔女に対する封印の解除が、今まさに始まろうとしていた----。




