カーラβ
「それでは、封印解放を行う」
アンソニーの声が幽かに震えている事に私は気付いた。
無理もない。
魔女の封印が解かれる、つまり魔女が内側からこの扉を通ったのは、80年前なのだ。
それを経験した者は、法王庁にはもういない。
ガシャ……ン。
閂が司祭枢機卿の手で再び外される。
冷たい空気が、私達の頬を、髪を、確かめるように撫でていく。
「ここから先はコイツの誘導に従え……目標に着くまで絶対に導線から外れるな」
扉の横で立ち止まったアンソニーの肩から、白いカラスが飛び立ち、ゆっくりと私達の頭上を旋回する。
「メリッサ、アイリス、よろしくお願いします」
聞き覚えのある涼しげな声。
「……カーラ!?」
「モバイル版だ。容量が小さいのと本体との通信に時間を要するのが難点だが、お前達には勿体ないくらいの金が注ぎ込んである」
ばさりばさりと重たげな羽音以外は、本物のカラスのようにしか見えない。
「カーラβとお呼びください」
「すごーい! 可愛い!」
飛び上がらんばかりに喜ぶ少女の周囲を飛び始めたカーラを見ながら、私は司祭枢機卿に確認する。
「私の剣は?」
「待ってろ、今渡す」
アンソニーはやにわに背後に振り向き、手で素早く何かを合図する。
すると、生垣の陰から赤く塗った一台の小型作業車が注意深くこちらに進んできた。




