出撃の刻(とき)
「遅い! これだから女は嫌なんだ!」
「いや、軍隊とかじゃないんだから……」
螺旋階段まで戻ると、司祭枢機卿は心底嫌そうな顔で仁王立ちになっていた。
その肩には、先程の白いカラスが微動だにせず止まっている。
「まぁいい、作戦内容は追って説明させる。来い」
不機嫌極まりない神の御使いの背中を追うようにして、私とメリッサは手を繋いだまま階段を上る。
司祭に小学生にスーツ姿の長身の女----事情を知らない人間がもし見たら、季節外れのハロウィンの行列か何かに見えそうだ。
「今からお前達は封印の外に出る事になるが、間違っても変な気は起こすなよ?」
「今更起こさないわよ」
私達は温室に足を踏み入れた。
いつもなら静まり返っている真夜中の温室に、大小様々な足音だけが聞こえる。
いよいよ始まるのだ。
夜陰に包まれた硝子の天井。
その向こうに広がる世界は、80年前のあの時からどれほど変わっているのだろう。
少しだけ、怖い。
だけどこれから始まる戦いに比べればこんなものは乙女の感傷にもならない。
それだけ、私の神経は張り詰めていた。
茂みを突っ切ると、毒草達が道を開けようとするかのように、しっとりと濡れた葉をさざめかせた。
「すごい……アイリス、貴女、本当にここからお外に出られるんだね……」
メリッサが呟いて、私の手を握り直した。
「お外は、キレイだよ?」
「……ありがと」
ほんの一瞬自分が手を引かれているような錯覚を覚えて、私は気付かれないように口元を緩めた。




