表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/398

少女メリッサ

 私と男のやり取りの間、少女は身じろぎ一つせずに立ったままでいる。

 表情は全く変わらない。


 この様子だと、落ち着いているというよりは、話の内容を全く理解していないのかもしれない。


(この子、自分をはじまりの魔女だと自称している割には、立場をどこまで知らされているの……?)


 別に心配している訳ではない。

 これは苛立ちだ。


(だって、全然似てない……こんな子がモルガナだなんて、冗談にもほどがある……)


 『女王』であるはずなのに『女王』の姿をしていない。

 それなのに違うと断じる事のできない自分が歯痒い。


 モルガナは二十代半ばの容姿だった。


 女にしては背が高すぎるとドレスを着るたびに揶揄われていた私と並んでも、さほど差を感じさせない身長だった。


 しかしこの少女は----その半分もない。全くの子供だ。


 薄手のワンピースの裾から伸びた脚は、膝小僧の丸さがやたらと目立つ。

 新品のサンダルから覗く桜貝のような足の爪は、触れたら砂糖菓子のように崩れてしまうのではないかと思うほどに、淡く輝いている。


(見れば見るほどあの女性ひとに一つも似てない……こんな子の何を私はモルガナだと思えたのだろう……?)


 少女のサンダルの底から、踏まれた芝生の青い香りがふっと鼻を過ったような気がして、私は慌てて目を反らした。


 私のそんな様子を、司祭枢機卿は黙って見ている。


「私、お姉さんを知ってる」


 少女は不意に、歌うように言った。


「私はメリッサって名前なのよ」


 だから、そんな名前は、私は知らない。

 

 私は首を振ろうとした。

 私が膝を折るべき相手は、こんな見知らぬ少女ではない。


「お姉さんは、私の……」


 最後の部分が聞き取れなくて、つい顔を上げてしまった途端、見知らぬはずの少女が、にぃッと笑った----ように見えた。


 その瞬間、背筋を熱い電流のようなものが駆け上った。


「……ッ!?」


 紛れもないモルガナが、そこにいた。

 私の脚から力が抜ける。


「そんな……だって、その子は……違う……」


 全身がずしりと重くなる。


 消え失せたはずの魔女の気配が、質量のあるものとして私に押し寄せ、呑み込もうとしているかのようだった。


「認めろ、これはモルガナの帰還だ」

「でも……この子は……」


 上手く言葉が出て来ない。

 代わりに、再び膝をついていた。


「ほう……どれだけ姿が変わっていてもやはり身体は主を覚えているのか、優秀な犬じゃないか」


 男の言葉に混じる感嘆の響きに眉を寄せながら、私は少女に向かい、頭を垂れる。


「私はメリッサ……モルガナの血と肉を持つ者」


 さらさらさら。


 また髪の流れる音がすぐそばで聞こえた。

 まるで音楽のように美しくて、私は呻いた。


 そう、こんな子が、人間のはずはない。


 目の前に小さな手が差し出される。


「貴女の目を治したのは、私よ」


 私は引き寄せられるようにしてその手に触れた。


「モルガナの血と肉……それがないと、貴女は生きられないんでしょ?」


 メリッサが囁く。


「私も、同じなんだって」

「同じ?」


 黒髪の少女は、習ったばかりの知識をひけらかすかのような無邪気さで、私に告げた。


「アイリス……貴女の血と肉がなければ、今の私は生きられないんだって」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ