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庭師

 驚く事に、少女が一人でここを訪れる訳はないという事を、今の今まで私は全く失念していた。


「……これがなりそこない、か」


男は金色の大きなランタンを顔の高さまで掲げた。

 見たところ、五十代といったところか。

 眼鏡をかけ、痩身で白髪という外見は、聖職者というよりも学者然としている。

 ただ、高い場所から人を見下ろす様子が板についているところを見るに、恐らくは貴族の出身だろう。


(虫の好かない男だな)


 細かな装飾の施されたランタンは、多分、呪具だ。それもかなり強力な術が施されている。

 これを手にする事が許されているのは法王庁でも数えるほどしかいないはずだ。


「貴方が、新しい庭師……?」

「ああ、毒の花を囲い、毒蜜が地に流れる前にその花を刈り取る者だ」


 いつから始まったのかは忘れたが、彼ら庭師は皆魔女に向かってそう仰々しく宣言する決まりになっているようだ。


 庭師----。


 法王庁には私達魔女を管理するための極秘部署がある。

 最高責任者は----法王。


 もちろん法王が直接魔女のいる温室に来る事などありえない。


 大司教以下選抜された聖職者のみがこの中庭への立ち入りを許され、魔女を見る事ができる。

 中には何らかの理由で命を落とした者もいるらしいが、その事実は勿論伏せられている……と思う。


 彼らは庭師と呼ばれ、魔女の存在の秘匿ならびにその『有効活用』の実践のために日夜励んでいるらしい。

 魔女の生殺与奪の権を握っているのだ。

 身も蓋もない言い方をすると、看守のようなものである。死刑執行人も兼ねている。


「ただの庭師じゃなくて、『棟梁』自らがお出ましなのね」


 司祭枢機卿に向かい、私は唇を歪めて見せた。


 聖なる庭に建つ穢れた温室の底へ高位の聖職者がわざわざ降りて来るなどという事は、法王庁にとってあまり好ましくない事態が起こったとしか考えられない。


「でも、もう私を地上に出しても無駄だと思うわよ?」

「己惚れるな、なりそこない」


 男は唾を吐き捨てるかのように言った。

「お前に用はない……我々が必要としているのは、そこにいる魔女、メリッサのみだ」


 男に指さされた少女は、やっぱり目をぱちぱちとしただけだった。

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