はじまりの魔女
「違う! 私は……魔女なんかじゃない……!」
私は叫んでいた。
「魔女なんかじゃないし、それに……それに、貴女は、あの女……モルガナじゃない!」
少女は驚いた顔で私を見た。
見開いたまん丸な目には多分生ける屍のような女が映っているだろう。
「魔女じゃないの……?」
数秒前まで感じていた圧倒的な存在感は、その小さな身体にはもう片鱗すら漂っていない。
それが何故か無性に苛立たしい気持ちになる。
「……いいから早くここから出なさい」
私は思わず一歩前に出ていた。
「こんな所にいたら、魔女に食べられるわよ?」
そうだ、これは遠い昔に私が弟に言った言葉だ。
私がまだ人間だった時、家族がいた時の、よく口にした決まり文句だ----。
(……違う、この子はただの子供じゃない)
こんなのは茶番だ。
この子は魔女だ。
その証拠に心臓はまだ跳ね続けている。
(確かにさっき、私は感じた……モルガナの力が、私に流れ込んで来たのを……)
少女は怯える風でもなく、私を見上げている。
その目と目が合った。
そして、今度こそ私は本当に理解する。
草花の音は、もうとうに止んでいる。
「……私を食べられる魔女なんていないわ」
幼い声。
なのに、妙に明確に、断定的に少女は言う。
「だって、私がはじまりの魔女なんだもの」
そうだ。
そうだった。
そんな当たり前の事を言われて気付くとは----。
ランタンの光が近づいた。
階段の上を振り仰いで、私はようやく司祭服姿の男が立っている事に気付いたのだった。
「やはり引き合うものなのだな……魔女と魔女というものは」
降ってきたのは冷たい声だった。




