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fragment8
『坊ちゃん、これだけは覚えておいてくんなせぇ』
お城の中庭で、年老いた片目の園丁はよくこう言ったものだった。
『いいですかい? 森の中で一人でいる別嬪さんに出会ったら、その時は礼儀正しく挨拶だけして、それ以外の事は絶対に話さないですぐに森を出ないといけませんぜ?』
どうして? と幼い僕は首を傾げる。
どうしてそのきれいな人とはお話ししちゃダメなの?
『そりゃ坊ちゃん、森の中にそんな別嬪さんが一人でいる訳ないでしょうが』
ここで必ず園丁は芝居じみた動作で僕を両手で掴むふりをするのだ。
『いたらそれは、魔女でっせ……食べられる前に、一目散にお逃げなせぇ』
僕はそこで息を呑み、拳をぐっと握るのが常だった。
『絶対に……絶対に、魔女と言葉を交わしてはいけませんぜ? そんなことをしたら最後……坊ちゃんは、魔女の餌になっちまいますからね?』