fragment6
「そうだ……! 魔女に……っ、魔女に、頼んでみたらいいんだ……!」
僕はそう叫んでいた。
突然目の前が明るくなったような気分だった。
何で気が付かなかったんだろう。
「この森の魔女に、姉上のこの傷っ……治してもらえばいいんだよっ!」
そんな子供らしい無責任な思い付きを、姉上は力なく笑う。
「……何言ってるの……もう、無理に決まって……」
ヒューヒューという音が次第に大きくなる。
まるで僕を責めるように。
「剣ならともかく、牙で……抉られてるんだから……」
やめてよ。
そんな事、言わないでよ。
ゴポッという水音が、姉上の身体のどこかから漏れる。
人間の身体からは聞こえちゃいけない、そう思わせるような、粘ついた音が----。
「これを治すのは、神様でも……無理……」
姉上の胸元の傷は、柔らかく泥濘んだ不定形の穴のようだ。
少しずつ勢いを失いながら、多分赤黒いだろう血を吐き続けている。
「そんな事ないよ! だって、魔女なんだよ!? 悪魔の力で何でもできちゃうんだ……っ、どんな願いでも叶えてくれるんだって……僕はっ、聞いたんだ……!」
僕は、泣いていた。
しゃくり上げながら、これが全部夢ならいいのにと考えていた。
これが夢で、
目が覚めたらいつもの朝で、
姉上に剣の稽古を付けてもらって、
中庭で、聞いた事のない昔の人の話が書いてある本を読んでもらって、
読んでもらいながら、木漏れ日にうっすら染められた白い頬を盗み見して、ちゃんと聞いてなさいと怒られる、そんな毎日がまた続くんだと、僕は強く念じる。
でも、これは現実で、
そして全部、僕のせいなんだ----。
僕がこっそり森へ入ったから。
「姉上……っ、ごめんなさい……ごめんなさい……」
もう、返事はない。
「姉上っ! 姉上っ! やだッ! 死んじゃやだっ!!」
狂ったように叫んでも、身体を揺さぶっても、
僕の姉、■■■の目はもう開かなかった。
「ねっ!? 起きてよ! 僕っ、探してくるから……ッ、魔女を探して治してもらうからっ!ねっ!?」
「……そんなに魔女に治して欲しいの?」
静かな声が、不意に、はっきりと聞こえて----僕は顔を上げた。




