還るべき場所
「で、でもっ……魔女の灰は使わないの? 貴方、あれだけ必死に集めてたのに……!?」
「……いや、もういいんだ」
魔女の灰。
『はじまりの魔女』からそれぞれの魔女に分散した『力』が凝縮されている、とされているモノ。
これを巡って法王庁とナチスは今でも攻防戦を繰り広げ、そして一番有利な立場にいるのがこのマヌエルだ。
実際にはアトランティスでの事故で世界中に飛散した私とメリッサの灰が全ての始まりだ。
そしてそれを取り込んで魔女となってしまった少女達の灰でもある。
もちろん、私と共に火刑に処された『魔女マヌエル』自身の灰も----。
それらの灰を集め、自分の身体を再生させるのがマヌエルの目的だったはずだ。
(どういう事? 灰を使う以外の方法を何か見付けたとか……?)
マヌエルは空を仰いだ。
子猫の姿なのに、その顔は少し寂しげだった。
「もう、そんな必要はなくなったから……」
「マヌエル、貴方これから何処かへ行くのね?」
とん、と軽い音を立てて、灰色の子猫は床に飛び降りた。
私のベッドまで来て、私の顔に鼻先を寄せる。
「魔女は、森に還るよ」
「……私は、どうなるの? 貴方の使い魔なんでしょ?」
まだそう思っててくれるんだね、とマヌエルは嬉しげに目を細めた。
「やっぱり僕の姉上だね、という事は、呼んだら来てくれる?」
「……時と場合によるわね」
じゃあ、契約は解除しないでおくよ、と弟は言い、くるりと背中を向けた。
「アーネストとは常にリンクしておくよ。森から出る必要がある時は、身体を貸してもらう事になってる」
マヌエルが、ふと振り返る。
「言い忘れてた……フォルトナは地球人の身体じゃない。数年アトランティスにいたとはいえ、あそこは隔絶された環境だった」
「ちょっと待って、という事はこのまま地球にいて大丈夫なの……?」
マヌエルは頷く。
「今は法王庁にアネモネの灰があるからね、フォルトナとしての身体が使えなくなっても、最後の手段は使えるはずだよ」
そうか。
マヌエルは、自分の願いよりもフォルトナ----アネモネの命の安全を取ったのだ。
「また会えるのよね!?」
「会えるよ。いつでも会える……でも、次は、姉上がフルンティングを持ってない時に会いたいもんだね」
漁師の指輪を嵌めた男の方をチラリと見ながら、マヌエルは囁いた。
そして一言「ニャア」と鳴くと、ベッドから飛び降りた。
「マヌエル……ありがとう……」
マヌエルは、たとえどんな姿になっても、私の大切な弟だ。
今までも。
これからも。




