私の大切な人
「マキナは、ずっと昔に私が……今の私の、ずっと前の私が作ったの……今の貴女くらいの歳だったかな……」
ぽつりぽつり、少女は話し始めた。
「……その時は本当にただの機械で、最初は人間の言動を模倣しているだけの、対話型の人工知能だった」
「……うん」
私は頷く。
ふと、その先の話をなんとなく知っている予感がした。
「私は自分の時間を全部注ぎ込んで、マキナに知識を与えた……ただ一緒に話す相手が欲しかっただけだから、模倣でも何でも良かったの」
「つまり、マキナの『心』だか『心の原型』だかって、貴女が作った訳じゃないのね……?」
私の疑問に、メリッサは自信なさげに答えた。
「多分、ある種の不具合で発生したんだと思う……私がマキナを庇おうとして死んだ時に……」
「マキナを、庇おうとして……?」
不意に、ある光景が甦る。
燃え盛る炎の中で私を抱きしめている少女----私のご主人様の姿----。
「……あぁ……私、思い出したかもしれない」
私がマヌエルの使い魔であるのにも関わらず、彼に刃を向けるのを躊躇しなかった理由が、これで分かった。
あの温室の螺旋階段の下でメリッサを迎えた時の、全身のざわめく感覚が何に由来していたのかを、やっと理解した。
私は、かつてマキナと名付けられた人工知能の記憶を、確かに持っている。
私は私であり、マリアであり、マキナである。
そして私の横にはいつもこの子がいた。
「……メリッサ、貴女にはずっと昔から何度も助けて貰ってるのね」
「でも、結局助けられなかった……」
そう言って黙り込んでしまったメリッサの頬を、今度は私が撫でる番だった。
「……マキナは開発者である私に関する記憶を、十二王家に消去されないよう、何の関係もないデータに偽装してずっと保存していたのよ」
「それが……その、マキナの『心の原型』が、どうして私に入ったの……?」
カプセルの揺れが止まらなくなってきた。
でも、私達は話を続ける。
恐怖に怯えてその瞬間を待つよりも、大切な人と最後まで話していたい。
大切な人の声を聞いていたい。
そう思うのが、私の『心』なのかマキナの『心の原型』なのかは、分からないけれど----。




