体温
「私が、マキナ……?」
「うーん……正確に言うと、貴女の一部にマキナの『心の原型』みたいなモノが入っている……のかな……? うまく説明できないけど……でも、私にだけは分かるの……貴女は、私のマキナなのよ……」
私に抱きつきながら、メリッサはどう説明したものかと悩んでいるようだ。
その下で、私はメリッサの言葉をどう理解したらいいのか、彼女の100倍くらい悩んでいる。
「ええと……話を整理させて? まず、マキナはキュアノスにあったわよね? だけど、地球で言うと1世紀だかその頃に、キロノヴァの発生でキュアノスごと消滅したって……」
宇宙の星。
その全てに、寿命が存在する。
星は輝く事によって、自身のエネルギーをゆっくりと失っていく宿命と共にある。
放射面から失われるエネルギーは、星の内部で発生する核融合のエネルギーで補われている。
しかし星がその核融合のエネルギーを使い果たした瞬間からバランスは崩れ、星の死が始まるのだ。
内部の熱いガスが星自身の重さを支えきれなくなり内部へ圧縮され、密度の高い状態となる。
こうして、いわゆるコンパクト星と呼ばれる存在と化す。
そしてそのコンパクト星同士が融合する際に起こる大規模な爆発現象が、キロノヴァ----kilonovaである。
その明るさは新星爆発(nova)の約1000倍に達するそうだ。
(不思議なのは、あれだけ高度な人工知能だったマキナが、すぐ近くで発生するキロノヴァを本当に予測出来なかったのか? っていう事なんだけど……)
その疑問は一旦置いて、キロノヴァでキュアノスが消滅した頃、アトランティスはとっくに沈没している。
そして、灰になった私ことマリアは、エーゲ海を漂ったり地中海沿岸の草の栄養になったりと、自然のサイクルに取り込まれて究極のロハス生活を送っていたはずだ。
つまり、私にはアトランティス沈没以降、マキナとの接点がない。
「それに、そもそもマキナは純粋に人工知能だったわよね? カーラみたいに一部にカラスの脳を使ってる訳でもないし、ましてやシヴァみたいに人間を使った生体メインのシステムでもなかったはず……よね……?」
何より、マキナはあらゆる手法で『心』を人間から消そうとしていた。
『巫女』を犠牲にしてまで、惑星単位で住民の『心』を----特に『悪意』を取り除こうとしていたのは、もはや執念と言ってもいい。
私は、マキナ自身に『心』がないから『心』を恐れ、リスクとして完全に存在をなくしたがっているのだとばかり思っていた。
「……ホントは、マキナには『心』になりかけの、感情みたいなモノがあったの」
「じゃあ、私の知ってるあのマキナは……コピーとか2代目とか、そういう話?」
メリッサは少し切なげな表情になって、黙って首を振る。
カプセル内の温度が少しずつ低下していた。
生命維持に必要な機能も全て停止しているのだから、当たり前だ。
(酸素が切れるのが先か、私達の意識が西暦2026年に転送されるのが先か、ってところね……)
今はメリッサの身体がとても温かくて心地良いのが、何よりの救いだった----。




