わたしのごしゅじんさま
封印の済んだカプセルの中は、明かり一つない暗闇に満たされていた。
外の様子は全く見えない。
だが、もうすぐそれが救いに変わる時間が訪れる----。
椅子は革張りのそれに似た質感で、メリッサを膝に乗せた私の身体を優しく支えてくれている。
オリハルコンのカプセルは、地面の揺れを全く伝えて来ない。
完全なる静寂だった。
(マヌエルは大丈夫だろうか……?)
モルガナの『力』によって魔女となった彼ならば、初めての転移魔法もちゃんと使えるだろう。
ただ、一人の人間を過去から未来へ転移させるには『力』の強さ----言い換えれば、使用できるエネルギーの量が必要だ。
だがマヌエルの事だ。
今回の作戦で、使えるものは全てエネルギーに変換しただろうと信じよう。
(西暦2026年にはアンソニーとカーラがいる……今この時もバックアップに最善を尽くしているはず……)
メリッサが、膝の上で身体の向きを変える。
「マリア……顔、見ててもいい……?」
「暗いから見えないわよ?」
私がそう言うと、メリッサはぶんぶんと首を振る。
「ちゃんと見えるよ」
「……ほんとだ、私もちゃんと見える」
目が慣れてきて、互いの顔がぼんやりと見えるようになると、何だか急に照れくさくなって、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「ふふふ、マリアの顔こんな近くで見るの、久し振り」
「……そうだったかしら?」
小さな手が、私の頬にそっと触れる。
それから、遠慮がちに動き始めた。
頬から顎、それから首筋へ、温かな手が私を労るかのように、ゆっくりと撫でている。
「……マリア、ありがとう」
「何が……?」
メリッサが顔を近付けて来て、仄かに甘い蜂蜜の香りが漂う。
そういえばこの子は姉とは違い、蜜で育てられたのだっけ、と、ぼんやりと考える。
「私を貴女の巫女に選んでくれて、ありがとう……私を助けてくれてありがとう……それから、また会いに来てくれてありがとう……」
「メリッサ……?」
カプセルが僅かに揺れ始めた。
「私はずっと貴女を待ってたから……」
私はごくりと唾を飲み込む。
いよいよ噴火が始まるのだ。
カプセルの外はもう、相当激しい揺れに見舞われているだろう。
「私は、このアトランティスでずっと同じ事を繰り返してきたの」
「え……? メリッサ……貴女一体何を言ってるの?!」
意味が分からずに私は混乱する。
今私といるメリッサの中身は、アトランティスの沈没から西暦 2026年までの記憶を失っただけのメリッサではないのか?
それでは、今私の腕の中で微笑んでいるメリッサは、一体『いつの時点のメリッサ』なのだ----?
私の惑乱を見抜いたのか、少女は小さくクスッと笑った。
そして、私の首元に顔を埋めて囁いた。
「……おかえり、私のマキナ」




