メリッサと一緒なら。
「メリッサ止まって……! 止まれ! ストップ! ステイ……ッ!!」
次の瞬間、私は必死に叫びながら、螺旋階段の残り数段というところで、メリッサを空中からキャッチしていた。
(危なかった……!!)
目の前の空間には、寝台ほどのサイズの楕円形の透明なカプセルが、ぽつんと置かれている----『玉座』だ。
「わ! な、何でマリアが私より先にいるの!? あと、何で私達浮いてるの……!?」
いきなり現れた私に抱き上げられて、メリッサは驚愕している。
私も私で、自分が宙に浮いている事に驚いている----が、今は二人してパニックになっている時間はない。
ここは私が先に冷静にならねばならないのだ。
「説明は後でするわ! メリッサ、貴女はいい子だから私のお願いを聞いてくれるわよね?」
いい子、という言葉を事更に強調して、私はメリッサの顔を覗き込む。
「……分かった、いい子だからマリアのお願い、聞いてあげる」
私の必死の表情から何かを察したのか、少女は真剣な顔で頷いた。
「ありがとう、貴女は本当にいい子ね」
いつまでも浮いている訳にもいかないので、私はメリッサを螺旋階段の下にそっと立たせ、頭を撫でる。
「じゃあ、お願いが三つあるの」
「一つめは?」
私は『玉座』を指差す。
「まず、一つめは、この『玉座』には絶対に触らない事」
「……分かった」
二つめは、と言って私はメリッサの足元を指差す。
「絶対にそこから離れないで、でも、ちゃんと私を見てる事」
「……うん」
何故かメリッサは少し嬉しそうな顔をした。
私は、思わず泣きそうになる。
そうだ、私はこの子が嬉しそうにしているのを見ているのが大好きなのだ。
今も、西暦2026年も----ずっと。
「最後に、三つめ……フォルトナが言った事は全部忘れて、私だけを、最後まで信じて付いてきて欲しいの……出来る?」
「……出来る」
少女の目を見て私は確信する。
この子となら、大丈夫。
メリッサと一緒なら、なりそこないであろうが使い魔であろうが、私は戦える。
今度こそ必ず、このループする歴史の悪夢から抜け出せる。
抜け出して見せる。
「じゃあ、始めるわよ……!」
と、勢い良く宣言したものの、使い魔らしい仕草が思い付かなかったので、私はとりあえず両手を上に広げて叫んだ。
「おいで、フルンティング! それから……フォルトナ!!」
言い終わらないうちに、フォルトナが大剣を抱えたまま、物凄い勢いで腕の中に落ちて来る。
「ひゃ……ッ!?」
忘れていた。
フォルトナは私より背が高いうえに、大剣がプラスされているのだ。
この身体が使い魔モードでなかったら、私は衝撃を受け止められずに、そのまま床にひっくり返っていただろう。
「マリア!? 私はどうしてここにいるのですか!? ここに補佐官が立ち入るのは厳禁なんですよ!?」
「説明は後でするから! まずは先にアレを始末させて!!」
私の剣幕に目を丸くして立ち尽くすフォルトナには構わず、フルンティングを鞘から引き抜いた私は『玉座』の前に立った。
中には、背もたれが斜めになった肘掛け椅子のような白い装置がある。
(あの椅子が本体か……『治療』に使う装置と原理は同じようだわね……)
見た目はシンプルだが、頭が乗る部分の内側には、脳波の増幅器が格納されているはずだ。
ここに寝かされたら最後、巫女は常に『歌っている』状態の脳波になるように『処置』をされ、増幅された脳波は、一角獣の角のような白く細長い塔を通じて惑星を覆う。
(その対価として得るものが、人間の『悪意』だなんて……酷すぎる……)
椅子の後ろからは、私の腕と同じくらいの太さのコードが伸びて床と繋がっている。
カプセルの部分がオリハルコンだという事は、アネモネのメッセージで分かっていた。
フルンティングで一突きすれば、たちまち砕け散るだろう。
だが、私はそうはせず、蓋に掌を当てる。
小さく電子音が鳴って、ロックが解除された。
蓋が開いた途端、カプセルの内部のあちこちで小さな明かりが、目まぐるしく点滅し始める。
(……私がメリッサかどうか確認してる?)
そして、別人だと判断したのか、一斉に赤く光り始めた。
「……ふん、私は『施設』の常連だった女よ。アンタみたいな機械は一通り見てきてるの……そんな威嚇にビビるとでも思って?」
本当は、心臓がバクバクしている。
マキナからの隔絶状態が終わる前にこの『玉座』の機能を停止させないといけないのに、方法が分からない。
(……でも、やるしかない!!)
私は椅子から伸びるコードに狙いを定め、フルンティングで真っ二つにした----。




