とある魔女の告解 file7
メリッサの後を追って貴女が駆け出した瞬間、私は全身の血の気が引くのが分かりました。
本来ならば、あの螺旋階段を降りるのは、巫女一人だけだと決められています。
惑星監督官である貴女は階段手前で止まり、自分の分身である巫女が『玉座』に納まるまでを見届けます。
そしてそれが完了して初めて評議員達によってキュアノスへの回路を開いてもらう……それがこの儀式での貴女の本当の役回りでした。
しかし、メリッサに対する罪悪感の大きさのあまり、私は共に帰還しなければならない大切な友人に、この最も重要な事を伝えていなかったのです……。
あの時、何も知らされずに螺旋階段に足をかけた時点で、貴女の運命は既に決まってしまっていた……いいえ、私が決めてしまったのです。
あまりにも愚かで、最悪な行為でした……補佐官としても、そして……人としても……。
追いかけて止めようにも、塔の入口から先は、もう惑星監督官と巫女以外の者は、近付く事すら許されていません。
全てが手遅れでした。
私は、貴女の大剣を胸に抱いたまま立ち尽くしていました。
そして、茫然自失のまま、どれだけ時間が経ったのか分からなくなった頃……螺旋階段の遥か下から、突き上げるような揺れと共に轟音が響いて来ました……。
私には、何が起きたのかすぐに分かりました。
それは、決して壊れるはずのない『玉座』が破壊された音でした。
オリハルコン製の『玉座』に注がれているエネルギーは小さな発電所一つ分です。
それが破壊されたのですから、衝撃は凄まじい威力でした。
しかし、立ってはいられない激しい揺れにも、塔の入口は閉じたままでした。
直感的に私は悟りました。
評議員達……いえ、マキナは、惑星監督官と巫女の『処分』を行ったのだと……。
それから後に起こった事が、マキナの意図したものだったのかは、私には分かりません。
螺旋階段は、下に向かって見る見るうちに崩壊して行き、まるで蟻地獄のように、塔の床まで飲み込み始めました。
塔の壁には亀裂が走り、上から欠片が落ちてきます。
私は広がり続ける陥没穴から逃れようと、塔の壁に背中を押し付け、貴女の大剣を抱きしめながら何度も襲ってくる揺れに耐えました。
やがて、塔は完全に崩壊しました。
遥か下で爆発音が轟き、地鳴りが始まり……何度も何度も大きな揺れが続き、至る場所から真っ直ぐに火柱が上がるのを、私はへたり込んで見ていました。
地割れが走る大地と、土埃の中を逃げ惑う人々の悲鳴と、少しずつ大きくなってくる地響き……眠っていたはずの火山が噴火し始めたのです。
地獄というものがもしあれば、あの光景こそが地獄なのではないでしょうか?
そして……ついに私の目の前でも真っ赤な火柱が吹き上がりました。
私は、ふらふらと目前の火柱に近付きました。
貴女とメリッサを焼き尽くしたであろう業火に、自分も焼き尽くされたいと、飛び込もうとしたその時……頭の中にマキナの声が響いたのです。
『補佐官フォルトナの行為を職務違反及び、惑星機構への第一級反逆罪に該当するものと認定し、永久刑に処す』
永久刑……それは惑星機構での最高刑です。
キュアノスへの帰還は永久に許されず、このまま命が尽きるまで彷徨い続けるというものです。
私は、あの場で貴女の後を追う事すら許されなかったのです……。
その後の事は、もう……覚えていません。
泣いたのかすら覚えていません……。
アトランティスは、住民ごと海の底へと沈んだのです……貴女の大剣と共に……。
あの日についての話は、これで終わりです。
貴女がどう思ったのか、それを知らないで逝けるのが、せめてもの幸いです……本当に、最期まで私は卑怯者です……。
少し喋りすぎましたね。
ここからが肝心な話になります……。
アトランティスが沈んだ後、私は近くの小島に流れ着き、そこから一万年ほど放浪の旅を続けました。
その間に、普通の人間とは違う『力』を持つ人間、主に少女が時折現れるようになりました。
動物を操る者。
草木を操る者。
他人の『心』を読む者……。
年月が経つにつれ、その数と『力』の種類は増えていきました。
これは憶測ですが、あの爆発で『玉座』と共に砕け散った貴女方の灰は上昇気流に乗り、また海流に乗って主に北半球に分散したのではないでしょうか?
それを取り込んだ人間が『力』を得たのだとしたら……『魔女』がアトランティス発祥だと考えると、全ての理屈が合うのです。
『魔女』がサントリーニ島に惹かれる理由も、貴女を食べて更なる『力』を得ようとする理由も、全ては彼女達の『魔女』としての本能に刻み込まれているのです。
マヌエルが必死になって探していた貴女達姉弟の運命の転換点は、アトランティスの沈没です。
ですからマリア、もしもできるなら私の代わりにあの爆発を……無理は百も承知でのお願いですが、止めて欲しいのです。
希望は一つ……オリハルコン製の貴女の大剣しかありません。
オリハルコンを『正しく』破壊できるのはオリハルコンしかないのです。
……ごめんなさい。
全て貴女に押し付ける形で私だけ先に逝くのだけが、心残りです……本当にごめんなさい……。
でも、知恵ある貴女なら、きっと出来ると信じています……。
私が『心』を捨てていれば、こんな事にはならなかったのでしょう。
でも……それでもやっぱり、『心』を捨てないでいて良かった。
貴女と出会えて、嬉しかったり悲しかったり、嫉妬したり、時には憎んだりもしたのに、今は何も後悔していません。
もしも生まれ変われたとしても、同じ気持ちだと思うのです……。
ありがとう。
そして、さようなら。
大好きな私のマリア……。




