子羊の封印が開かれる時
大聖堂地下の庭園管理局本部----。
司祭服を纏った男達が、コンクリの剥き出しになった司令室に集まっていた。
80年前と同じ張り詰めた空気の中、聖油と乳香の香りが、そこはかとなく漂っている。
ここにいる全員は、『庭師』だ。
数年前まで木箱と書類の山に埋もれていた室内は、今はCICと見まがうような、最新のモニターとコンソールが隙間なく配置された、オペレーションルームになっている。
「予測地点付近にて、オーロラ出現しました!」
緊張した面持ちで、一人の『庭師』がコンソールを叩くと、大画面のモニターに、目を疑うような光景が映し出された。
「現在のサントリーニ島上空の現在の様子です」
純白のカソックの男は息を呑んだ。
天の裂け目から、見渡す限りの長大な光のカーテンが垂れ、狂ったようにはためいている。
これ自体は、オーロラが赤や緑に目まぐるしく変化する、ブレイクアップと呼ばれる現象の一種だろう。
だが、今回は、赤外線も紫外線も、オーロラキロメートル電波も、桁違いの放出量だった。
しかもサントリーニ島は、エーゲ海に位置している。
これは、決して北緯36度24分東経25度26分の島で見えて良い光景ではない。
北極圏ですら、ここまで激しいブレイクアップは観測されてはいないはずだ。
「設置してある乱数生成器の変動が、標準差異の十倍は超えています……!」
「広がる速度が随分と早いな、いつローマに到達する? 作業班、『タワー』にコードは全部繋ぎ終わったか? いや、衛星からのデータ分析は全部カーラにやらせろ、時間がないぞ……!」
矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、けたたましいアラート音の鳴り響く中、却って頭の中がゆっくりと冷静になっていく自分を感じる。
席に戻った男は手元のモニターに目をやり、全ての『使徒座の太陽光パネル』の起動完了を確認した。
「とうとう子羊が第七の封印を開いた、か……」
独りごちて、再び大画面の向こうに乱舞する極彩色のオーロラに見入った。
美しいという感想と、恐ろしいという感情は、両立するものなのだと久し振りに実感する。
「……パチェリ、地獄からでも見えるか? あれがお前の見たかった、神だ……」




