使徒座の太陽光パネル
アグリヴォルタイク太陽光発電所は、ローマから約10キロ離れた法王庁領サンタ・マリア・ディ・ガレリアに設置されている。
ここではバチカン放送局を含む、法王庁の消費する全エネルギーを生産している----という事になっている。
しかし、緑の農地全体を覆う太陽光パネルは、法王庁が公式に発表している消費電力量を遥かに超えた電力を生産しており、余剰電力は、法王によって巧妙に地下のラボや庭園管理局の各設備に分配され、消費されていた。
始まりは、当時司祭枢機卿であったアンソニーの提案により、2024年に気候変動対策への答えとして出された使徒書簡「Fratello Sole」(「兄弟なる太陽」)だ。
今やバチカン市国内の施設の屋根にも、至る処にパネルが張り巡らされている。
しかし、ほとんどの観光客は辺りをスマホで撮影するのに夢中で、パネルの控えめな煌めきには気付かない。
そして、それらのパネルが、実は太陽光ではなく、オーロラによる発電で真価を発揮するよう極秘に開発されたものである事も勿論知らない。
善良な彼らは法王の写真ポストカードセットだの、使い道のよく分からないステンドグラス風マグネットだのを抱えて、満足した顔でぞろぞろと帰って行くのだ。
オーロラは、一般的には発電所への悪影響を与えるものでしかない。
電磁場の変動により変電所の変圧器に誘導電流が流れて壊れ、停電が起きるからだ。
だが、それは裏を返せば、莫大な量のエネルギーを瞬時に得る事が出来る、数少ない機会とも言える。
オーロラが放出するのは電磁波だが、可視光のみならず、紫外線や赤外線をメインに、様々な波長の電磁波が一度に放出される。
それら全てを捉え、エネルギーに変換する----それがこの『使徒座の太陽光パネル』なのだ。
低緯度オーロラ発生の前兆が観測されると、ラボや『庭師』達に緊急招集命令が出される。
そして、その晩、法王庁領内に設置された全ての『使徒座の太陽光パネル』が、一斉に眠りから覚めたのだった----。




