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こわいゆめ

 後ろからマリアが私の名を呼んでる。

 

 何度も何度も、必死な声で。

 泣きそうな声で。


 だけど私は止まる訳にはいかない。

 螺旋階段の終わりを目指して、ひたすらに駆け降りていく。


 くるくる。

 くるくる。


 本当は今すぐ足を止めたい。

 振り向いて、両手を広げて、そのままマリアの胸に飛び込みたい。


 でも----私は巫女なのだ。


 惑星監督官の依代として、この惑星に一人残り、平和のために祈り続ける。

 それこそが、この巫女の私に与えられた本当の役目だった----。


 真実を告げられたのは、昨日の晩。

 三人で岬へ行った日の、真夜中だった。


 徹夜で翌日の儀式に備えるマリアのため、私は一人で寝る事になった。


 その時に、フォルトナがやって来たのだ。


 暗闇の中で、フォルトナは言った。


 巫女である貴女がこの星に残らなければ、惑星監督官であるマリアは惑星機構に反逆したとみなされる。

 そうなれば、マリアは永久にキュアノスへ帰れなくなるだろう----と。


「そんなの嘘っ! だって、マリアは私と一緒にキュアノスへ帰るって言ったのよ……!」

「マリアは、まだこの事を知らないのですよ」

「……じゃあ、本当に、私と一緒に帰るつもりなの……?」

 

 岬で抱き締められた時の、マリアの細い腕の感触を思い出して、私は泣きたくなった。


 フォルトナが言った事は多分本当だ。

 だって、マリアが嘘をつけない性格だというのは、私が一番分かっている。


 私だってずっと一緒にいたい。

 もっとたくさん話したい。

 笑った顔を見たい。

 手を繋いで、歩きたい----。


 マリアと私は、二人で一つ。

  死ぬまで一緒だと約束してくれた。


 でも、だからこそ、マリアを罪人なんかにするのは、絶対に嫌だ。


「分かってくれましたか……?」


 私がマリアと離れなければ、マリアが不幸になってしまう。


 (マリアがどうなるのかは、全部私にかかっているんだ……)


 怖くて、私は大声で泣いた。

 お腹の底から泣いた。


 誰かの為に何かを決断するという事が、どんなに恐ろしくて悲しい事なのか、やっと分かった。


 そしてその時、初めて理解した。

 お姉ちゃんが必死になって薔薇を咲かせようとした時の想いを。


 大事な人を護りたいという、強い想いを----。


 私がこうなる事は、最初から決まっていた。

 それをお姉ちゃんは気付いていた。


 選ばれたら二度と帰れない事を分かっていて、旧王家は惑星監督官の身代わりを送り出す。


 これまでずっと。

 これからも、多分ずっと----。


「……今のお話は、絶対にマリアには話してはいけませんよ」


 フォルトナが囁く。


「貴女は、明日、塔に入るまでは今の話を忘れているのです……そう、怖い夢を見た……それだけ覚えていてくだされば十分ですから」


 手渡されたのは、金細工の小さな盃。


 少し苦い花の蜜の入った、初めてのお酒を、私は一気に飲み干した。


 そうだ、これは夢なんだ。

 怖い怖い、ただの夢。


 少しして、頭がふわふわし始め、フォルトナが頬に残る涙を優しく拭ってくれたのまでは、覚えている。


 そう、今の話はただの----こわいゆめ、だ。


 寝室のドアが閉まる音が聞こえた頃、私はいつもより深い眠りに落ちていた----。

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