fragment18
カラビ・ヤウの白い森で、今日も僕は一人、果ての見えないニューロンの木々を見上げていた。
もうどれだけ繰り返したのか分からない自問を、また繰り返す。
「僕は、何を見落としてるんだ……?」
答えてくれる声などない。
だって、ここは僕だけの世界なのだから----。
姉上を取り戻すために、僕はニューロンの枝を伝い、過去と現在を秒速70メートルで何度も何度も往復し続けた。
ニューロンの枝は、僕が通る度に互いの結合を強くし、太くなる。
枝は幹となり、新たな枝を伸ばして行く。
僕はその枝のさらに先を目指す。
僕が目指しているのは未来ではなく、過去だ。
現実には人間は過去に遡る事は理論的に不可能とされている。
だが、ここは仮想の空間だ。
身体を持たない僕だけが時間の制約から解放され、一種の電気信号として6次元の世界を生き来している。
姉上が生まれた日。
僕が生まれた日。
母上が亡くなった日。
姉上が、森で死んで、そして甦った日----。
僕はこれらの日に拘っていた。
これらの日のうちのどこかで、姉上と僕の運命が大きく狂った----そう考えたからだ。
だから僕のニューロンの幹は下ヘ下ヘと伸び続けた。
物理学の世界では「砂山ゲーム」というコンピューターによる実験が行われた事がある。
社会や組織が大規模な変化を起こす時、それを引き起こすのは、一人の人物なのか否かという問いに対し、この実験の結果は否定的だった。
積み上げられた砂山の中の特別な一粒が崩壊を引き起こすのではなく、砂山は既に臨界状態にあって、崩壊は遅かれ早かれ起きるものなのだ、と結論付けられたのだ。
だが、違う。
どんなに臨界状態であっても、それまで持ち堪えていた砂山が崩壊するのには必ず最初に一粒の砂が動くはずなのだ。
その一粒の砂は、必ず存在する。
もっと過去に。
もっと遠くに。
そう確信した僕は、僕達姉弟の因果という名の砂を見つけるために、遂に、過去に----そして他の惑星へ繋がるニューロンへアクセスする事に成功した。




