愚かで無邪気な。
惑星監督官は、正確には、赴任した時点では、まだ惑星監督官候補という肩書きでしかない。
惑星の統治を完了させたと評議員達に認定された時点で、初めて惑星監督官としての就任式が行われ、就任の儀式を経て惑星監督官となる。
未成年の場合はこの時に成人の儀も同時に行われ、その後は母星に帰還する。
私達三人は、惑星へ発つまでの期間、郊外の監督官育成施設で暮らしていた。
メリッサは、巫女としてのカリキュラムを受ける時間以外は、私といつも一緒だった。
私の、惑星監督官としての、赴任先の惑星の基本構造や、住民達の生活習慣や言語、風習などの、座学の時も隣で黙って聞いている。
メリッサの興味は、子供が喜ぶようなお菓子や服よりも、とにかく知識を得る事に向けられていた。
「勉強、退屈じゃないの?」
私が聞くと、メリッサはキョトンとした。
「勉強だよ? 楽しくないわけないじゃない」
言われてみれば、巫女としての立ち居振る舞いの授業から帰って来た時の方が、ゲッソリとした顔をしている気もする。
「勉強は面白いし、それに何か問題が起きたら解決に使えるでしょ?」
そう諭されてしまうと、私はいかに惑星監督官としての自覚が足りないか反省するしかない。
生活は二人一緒で、私の部屋で寝起きし、一緒に食事を摂る。服装もほぼ同じ、髪型も同じで、これは生体リズムの同調のためだという説明だった。
ただ、私が監督官としてフォルトナの執務室に行く時だけは、機密上の問題という理由で、メリッサは連れて行かず、いつも一人だった。
フォルトナは、同じ施設の反対側に、仕事場も兼ねた広い部屋を与えられている。 行政系を中心とした仕事がメインとなるため、常にマキナの端末に囲まれるようにしてデスクに座っている。
作業中や、打ち合わせのために集めた職員達に指示を出す彼女の声は、見た目以上に落ち着きのある、いかにも組織を纏める人間の声になっていて、私に対してもそれが変わらないのが、少し寂しかった。
「……最近の様子はどうですの?」
「メリッサって、ホントに面白い子よ。昨日も惑星構造論の講義で、地殻の中に生物が存在する確率、について質問していたくらいだもの」
つい思い出し笑いをしてしまった私に、フォルトナは、無言で微笑み、「それではこちらが先日お話した資料ですわ」とデータを手渡して来る。
漏洩を避けるため、情報のやり取りは施設内でも補佐官室での対面が基本らしい。
「……フォルトナは相変わらず仕事熱心ね」
「仕事中は余計な事を考えずに済みますから」
投影された神殿の立体図面を見ながら、私は再び仕事に戻るフォルトナの顔をちらりと見た。
「フォルトナは……」
「何ですか?」
私は思い切って切り出した。
「……今でも『心』があって良かったと思ってる? 私は、あって良かったと思ってる……だって『心』を持って生まれたから、貴女みたいな、かけがえのない友達が出来たんだもの……」
手を止めた補佐官は微笑んだ。
「私も、同じですよ……姫様は私のたった一人の大切なお方ですわ」
「ホントにそう思ってくれてる!? それじゃ、これからも私達はずっと友達だからね……!?」
そう。
あの時の私は、とても愚かで何一つ分かっていかった----。
まるで、無邪気な子供のように。




