心
あらかじめ設定してあった転送ポイントまで戻ると、転送開始可能時間まで、まだ数分の時間があった。
私は提案した。
「ねえ、先にここで、簡単に自己紹介しちゃわない?」
簡易式転送装置は、四人乗れば満員になる大きさだ。
中に入って狭い思いをしながら待っているよりは、外の空気に当たって待っていた方がいい。
「…ええと、まずは私からね。もう知っていると思うけど、十二王家の……まあ、何番目とかあまり意味はないわね。とにかくいわゆる王家の長女で、惑星監督官のマリアよ。『心』を持ってるからマキナには嫌われてるわ……これからはマリア、って呼んでね」
「知ってる。あと、ほさかんのお姉さんも『心』を持ってるよね」
メリッサはそう言い、フォルトナを見上げる。
「ほさかんのお姉さんは……私の事、キライでしょ?」
「まさか! そんな事ある訳ないじゃないですか……!」
フォルトナは、慌ててメリッサの前に屈む。
「ただ、私の予想と違ってたから、びっくりしただけ……貴女の事、本当に心から歓迎してますのよ」
「……ホントにそれだけ?」
不意にメリッサの声色が変わった。
「思考するにも、その前提として『知識』がなければいけない……」
それは、まさしくフォルトナの声だった。
「その『知識』を得るには『心』から生じる好奇心や探究心が必要なのに、惑星機構では『心』それ自体を悪と断じています」
「メリッサ! 貴女どうして私のその言葉を知って……!?」
驚愕のあまりだろうか、フォルトナはメリッサの両肩を掴んでいた。
確かに今ならまだ、マキナには聞こえていないので、ここでその話をしても、何の危険もない。
だがそれよりも、メリッサの発した言葉は、驚くべき事に、一言一句、以前フォルトナが私に言った言葉だったのだ。
「……だから、おかしいのは私達じゃなくて、マキナと……それを動かしてる惑星機構そのものなのですよ」
そこまでいい終えて、少女はフォルトナの両手をそっと握る。
「ごめんなさい、今、急に見えちゃったの……」
「……そう、でも……もう、たとえ巫女であっても、こういうのは人前であんまりやっちゃダメですわよ」
フォルトナが立ち上がると、少女は素直に頷いた。
「あとね……ほさかんのお姉さんは、きっと『心』が他の人よりも強い人なんだと思う」
「それは……良くない意味?」
フォルトナの頬は、少し紅潮している。
それでもここまで冷静に戻れたのは、さすがは補佐官だ。
「ううん、悪い事じゃないと思う。でも……」
「でも……?」
その時、転送準備が完了したというアナウンスが流れ始めた。
「ほさかんのお姉さんは……」
「フォルトナでいいですわよ」
メリッサは少し考え、言った。
「……今、『心』なんてない方がいいと思っているでしょ?」




