門扉
「あれが図書館……!? すごい立派! 私でも入れるのかな?」
惑星機構に図書館は、ほとんど存在しない。
星々から収集した書物は全て翻訳・検閲され、電子化されてデータセンターに保管されている。
人々はマキナを通じてのみセンターにアクセスでき、情報を得ることが許されている。
だから、銀河中の書物、しかも原本のみが集められた図書館というのは、私にとっては垂涎の的だった。
「ね、ちょっとだけ……」
「いけません、時間に遅れますわ」
新任補佐官は、にべもない。
「……もうあと少しで始まります」
惑星機構の始まりは、たった一つの小さな図書館だったと言われているが、もしかすると、あれがその図書館なのだろうか----?
しんとした図書館の横を通り過ぎ、灯りの消えた簡素な家々を横目に早足で森を行く。
「……あそこです」
フォルトナが手にした照明器具で前方を照らし出した。
そこに聳えていたのは、首都では見た事もない、石造りの建物だった。
いかにも旧第一王家に相応しい荘厳さに、私は見上げたまま言葉を失う。
(これが……私達の元筆頭王家……)
元は同じ血筋であったという話は、勿論知っている。
だが、その前に立つ私と、この城の持ち主の間には、言葉にはできない深い断絶がある----そう思わせる空気が、ここには流れていた。
(この儀式、私が巫女を選ぶんじゃない……巫女が、私を選ぶんだ……)
腕の中の薔薇の鉢が、心なしか、ずしりと重たく感じられる。
大きな門扉の前に立ち、私は教えられた言葉をゆっくりと唱える。
「言葉は、意思より生まれしもの」
私の声が木々に吸い込まれると、どこからともなく返事が返ってきた。
「意思は、混沌より生まれしもの」
それを合図にしたかのように、門扉は重たげな音を立てながら開いた----。




