種
惑星機構の地図から抹消されている第一王家の居住地のほとんどは、森だ。
王家の居城は図書館から更に森の奥にあり、そこへ至るまでは一本の曲がりくねった細い道しかない。
十二王家の人間は、必ず右手に薔薇の種を握って産まれてくる。
その種は一粒だけ。
鉢で大切に育てられた種は、発芽はしても、枯れてしまう事が多い。
蕾が付くまで育つものもあるが、その薔薇の蕾はそこから花開く事はない。
不思議な事に蕾は萎れる事のないまま、何年も白く固く閉じたままだ。
だが、惑星監督官になる事が決まったその晩、月の光の下で、私の蕾だけは、みるみる深い青へと変わって行った。
まるで、昔見た記録媒体に映し出された広大な海のような
深い深い青に----。
そうして、今、窓辺の机に置き、毎晩眺めていたその薔薇の鉢を、私は両手に抱え、フォルトナと二人きりで森の小道を歩いている。
漆黒のローブにフードを被り、護衛も付けずに……。
人の手で整備されている道とはいえ、森の中は息が詰まりそうな程に暗い。
フォルトナが足元を照らしてくれなければ、一歩も歩けないだろう。
「本当にこんな事に私の巫女がいるの?」
惑星監督官に選ばれるまで、私は惑星監督官には巫女が必要であるなどと知らなかった。
合格が通知されてから、初めてフォルトナの口から知らされたのだ。
マキナは、どんな質問であっても惑星監督官についての説明を一切してくれない。
全てをフォルトナが一任されている形になっている。
かといってフォルトナが全てを説明してくれるのかと思いきや、肝心な事については直前まで教えてくれないのだ。
「だいたいどうやって見つけるの?」
「……だから来たのですよ」
少しばかり他人行儀になった私の補佐官は、子供を諭すように答える。
「その鉢、少し重いでしょうが、頑張って持っていて下さいね。御自分で持っていないと意味がないのですから」
「はいはい、頑張ります」
やがて、夜目にもほんのりと白く輝く建物が木々の間から見えて来て、私の背筋は自然と伸びた。




