巫女メリッサ
私のずっと前を、少女は、疲れを知らない小さな蜜蜂のように、螺旋階段を駆け下って行く。
まるで、その先に何があるのか分かっているかのような、疑問も恐れもない、迷いのない走りが逆に私を不安にさせる。
彼女は、この塔の底に何があるのかを知っているのではないか----そう考えた時、私はふと思い当たる。
「メリッサ! 待ちなさい……!」
少女、いや、巫女メリッサは、これから私達に起こることを既に知っている。
あんなに不安げだった様子は、今はもう微塵もない。
ある種の使命感すら感じさせるような、目的を持った、何かを確信している走り方だった。
私を導き、同時に拒絶している走り方だった。
「メリッサ! 待ちなさいったら……!」
くるくると少女が階段を一巡する度に、私の中の記憶が鮮やかに甦る。
膨大な数の記録媒体が、ひしめくようにして並んでいた図書館の螺旋階段。
くるくる。
くるくる。
暗闇の中で、無数の花達が息を潜めるようにして群れていた、温室の地下へと続く螺旋階段。
くるくる。
くるくる。
『そんなはずはないのに』
記憶にある記憶と、記憶にないはずの記憶が、私の周囲に鮮やかに広がる。甦る。再生する。
『私は、これを全部知っている』
今この私の脳裏に渦巻いている全ては、紛れもない、私の過去と未来なのだ。
私がかつて下った、そしてこれから下る全ての螺旋を、私はメリッサを追って全力で駆け下る。




