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皮肉

『調律』は『心』を持っている者に対してのみ行われる処置だ。


『治療』があくまでも『心』そのものを消滅させるための医療行為であるのに対し、『調律』は『心』を持つ補佐官の任務の一つとして定められており、これを拒否すると懲罰が課される。


『調律』では、補佐官が任期中に無意識下で受けたストレスを取り除くのが目的である、とされている。


 未開の惑星での異種族とのコミュニケーションの困難さや、彼らとの文化的な対立は、マキナの支援を受けているとはいえ『心』を持つ惑星監督官にとって大きなストレスとなる。


 補佐官は常にその監督官の相談を受け、時には大きな決断の後押しを行う事で、監督官のストレスを軽減させる。これは補佐官の最も重要な役割であるが、同時に補佐官本人の『心』への強い負担となるため、数年ごとの『調律』が必要不可欠となっているのだ。


 詳細は機密扱いであり、受けた補佐官には守秘義務が生じるため、『調律』の具体的な内容を知る者は極少数である。


 ただ一般的な説明として、『調律』とは主に大脳皮質前頭前野の、神経回路を回復させる処置であると言われている。


 前頭前野は、欲望にまかせた行動や暴力といった、原始的な衝動を抑える機能を持つ領域だ。

 この前頭前野の神経回路が、ストレスによって放出された神経伝達物質に晒されると、精神の調和が乱され、理論や思考が低下してしまい、不要な不安や恐怖を持つようになってしまう。


 神経回路の強度は、遺伝や育成歴により個人差があるが、補佐官の神経回路は長くても連続して五年程しか保たないという研究結果が出ている。


 そうなる前に赴任先での任務を完遂し、監督官をストレスから守り、帰還後に『調律』を受けて再び高度な精神活動を再開できる『心』を持つ補佐官は、惑星機構にとっては非常に貴重な存在なのだ。


 ----本当に皮肉な話だ、と子供ながらに私はそう思った。

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