秘密
フォルトナの一日の半分は、検査室での様々なデータ採取の時間に充てられていた。
身体がすっぽり入るような大きな椅子に座らされて、どこかの惑星の戦争の映像を見せられたり、翻訳された古代の物語を読まされる。
その時の彼女の脳波や心拍数はセンターに送られ、リアルタイムで分析される。
私はその隣の椅子に腰掛けて、検査の様子を見ていた----のではなく、見る振りをしていた。
実際には、その間、私達は一言も声を発さずに、視線も交わさずに喋っていた。
驚くべき事に、それぞれ別の人間と会話をしながらでも、話ができた。
すぐ横で作業をしている技師達はデータを見ているはずなのに、何も気付いていない。
私達はそっと顔を見合わせた。
『……ねぇ、今の私達、『心』同士で話せてるよね!?』
『こんな事って出来るんですね。私、前に本で読んだ事があるだけですわ』
『私も! 私も図書館で読んだ事がある! 古代の人類は、言葉を発明する前に互いの『心』だけで話ができたんだって……!』
『言葉が一般化されてからは、社会集団の中において、野蛮で未開な行為だから禁止されたと教わりましたが、私……こうやって貴女とお話ができるの、とても楽しいです』
絶対にばれてはいけない秘密は、こうして私達を結び付ける事になった。
『心』は絶対に必要なもので、『心』がなければ『知識』も生まれない。
何故なら『知識』は『好奇心』から生まれるものだから----などという話を、表向きは神妙な顔で『教材』を見ながら話すのは、私も楽しかった。
『ねぇ、今の私達のこの文明は『心』を持った遠い昔の人々が『好奇心』によって得た『知識』をただ利用しているだけなんだと思う』
『分かります。今の私達、そして惑星機構は、何も生み出さない存在でしかないのです……確かに私達はマキナのおかげで健康で長く生きるけれども、死んでしまえば宇宙の広がりと共に素粒子へと還っていくだけの、虚しい存在ですわ……』
私のずっと考えていた事を、フォルトナもまた考えていたのだ。
『この世界では、私達は何も選ばない、何も決めないで生きているよね』
『そう、マキナの提案を承認する……ただそれだけですわ』
『どうしてマキナが色んな選択肢からそれを選んで提案してきたのか……誰も考えない』
私達の生活は、マキナと呼ばれる人工知能によって管理されている。
頭痛の前兆を感知すると服薬を提案され、食糧庫の中身が減り始めたら、何をどれだけ補充するように、と提案してくれる。
人々は何も考えず、承認し、マキナに全てを委ねて、ひたすら柔らかな微睡みの中で一日を、そして一生を過ごす----。
私達にはそれが耐えられない。
だから『心』を絶対に手放さない。
私とフォルトナは約束した。
マキナの管理する社会の中で、マキナを欺きながら『心』を持ったまま生き続けよう、と。
その約束を可能にする方策を、私は考える事にした----。




