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アンソニー
「ねぇ……手、疲れちゃったんだけど……」
メリッサがつまらなそうな溜息を吐いた。
「どうせすぐ近くなんだから、こんな物使って話すよりこっちに来ればいいのに」
「それは無理だ」
アンソニーは、にべもなく断る。
「この服が一着幾らすると思ってるんだ? 私に毎日司祭服を焼かせる気か?」
「焼くって……まさか……」
唖然とする私に、
「アンソニーはね、キョウシンジャなの」
少女がさらりと物凄い単語を口にする。
「ラボに入った後は、服は燃やしちゃうんだって」
「靴もだ!」
憤然とした声が追い掛ける。
「腐れ魔女の巣に入った服で主の御前に出られると思うのか?」
なるほど、狂信者だ。
それもかなり筋金入りの----。
「従って、だ……今後の連絡の一切はこの端末で行う」
なるほどその方が却ってありがたい。
「そっちからは繋がなくていいぞ。鬱陶しいだけだからな」
ますますありがたい。
科学の発展とやらに、私は生まれて初めて心から感謝した。