亡霊
「う……動いた……」
私は、思わず後退りしてしまう。
装置に、確かに疑似的な命のようなものが吹き込まれたという実感に気圧されたのだ。
擬似的な命。
それは電気という、科学の力によって生み出された新しい存在----。
(でも……こんなシロモノを動かして、私達はこれから何をさせられるの……?)
電算式魔術支援システム。
その言葉の響きのどこかに覚えがあった。
(……これ、多分……あの時の戦争で回収した試作品を使っている……?)
魔術と科学。
相反するはずの二つの理論を一つにして、世界を新しい理で生まれ変わらせようと考えた人間は、これまでに何人もいた。
そして、その思想で世界を変えようとした組織も幾つもあった。
(そうだ……この感じ……間違いない……)
80年前に滅びたはずのあの組織。
私達が滅ぼそうとした組織。
ナチスドイツだ。
私は更にもう一歩、後退る。
まるで亡霊を見た墓守のように。
「ベルリンを思い出したか?」
「……!?」
突然司祭枢機卿の声が聞こえた。
「これ、まさか……本当にあの時の……?」
「……そうだ、それのモデルは第三帝国から鹵獲した試作品だ」
いるはずのない男の声は、メリッサが両手で持つ分厚い黒いノートのようなものから流れて来ている。
「……さすがは法王庁ね。この世界の物は全て手に入れてしまうとか」
「悪いがウチをイギリス呼びする事は地獄に堕ちる決まりになっている」
電話のような原理なのだろうが、本人がいないのに声だけ聞かされるという状況はどことなく落ち着かない。
それに、ベルリンという言葉に私が覚えるのは、懐かしさなどではない。
憎しみだ。




