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指令

「アンソニーね? 説明して」


 脳裏に滲んだ忌まわしい光景を振り払い、私は努めて押し殺した声を出す。

 

「これが一体何のための機械なのか、今、法王庁の外で何が起きているのか……貴方は庭師の棟梁として私に理解できるよう説明する義務があるわ」

「はッ、義務ときたか……魔女風情がこの私にそんな口を利けるようになるとはな」


 まるで目の前にいるかのような声が部屋に響く。司祭枢機卿の口元が腹立たしげに歪むのが目に浮かんで、この数十年で人間の技術は随分と進歩したものだ、と、場違いな感慨すら覚えてしまう。


「そもそもこの子を連れてきて、あのまま飼い殺しにするはずだった私の目を治したのは、何故なの?」

 

 実のところ、もう分かってはいる。


 法王庁は私を再び使役しようとしているのだ。


 ベルリンでの極秘作戦で壊滅した魔女部隊の唯一の生き残りの私と、その時に死亡したはずの魔女モルガナから作られた少女。


 魔女達の中でただ一人単独行動を許されなかった魔女と、その贄----。


 存在しないはずの私達二人の魔女を、法王庁は再び地上に----温室という名の檻から人間界へと放とうとしているのだ----。


「お前も、もう聞かずとも分かっているのだろう?」


 黒い装置を抱えたままのメリッサは、こんなやり取りの中でも目をパチパチさせているだけだ。

 早く終わらせて欲しいとばかりに頬を膨らませている。


「これは指令だ」

「科学万能のこの時代に、魔女とはね」


 私の皮肉を男は聞き流す。

 

「我々にとってあの大戦は終わっていない。魔女が振るう法王の剣による教義の守護……それを行う時が再び訪れた、それだけだ」


(……それって、まさか……いや、そんなはずは……)


「思い出したか? そうだ、あの日の続きだよ」


 司祭枢機卿の言葉に、忌まわしい光景が再び、今度は鮮明に浮かび上がった----。

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