亡霊
「う……動いた……」
私は、思わず後退りしてしまう。
装置には、確かに疑似的な命のようなものが吹き込まれたのだ。
電気という、科学の力によって----。
(でも……これを動かして、私達は何をするの……?)
電算式魔術支援システム。
その言葉の響きのどこかに覚えがあった。
(これ、多分……あの戦争の時に回収した試作品を使っている……)
魔術と科学。
相反するはずの二つの理論を一つにして、世界を新しい理で生まれ変わらせようとした国があった。
私は更にもう一歩、後退る。
まるで亡霊を見た墓守のように。
「これ、まさか……本当にあの時の……?」
「……そうだ、それのモデルは第三の帝国から鹵獲した試作品だ」
突然、私の漏らした呟きにアンソニーの声が応えた。
「ベルリンを思い出したか? 懐かしいか?」
いるはずのない男の声は、メリッサが両手で持つ黒いノートのようなものから流れて来ている。
電話のような原理なのだろうが、本人がいないのに声だけ聞かされるという状況はどことなく落ち着かない。
それに、ベルリンという言葉に私が覚えるのは、懐かしさなどではない。
憎しみだ。