貪欲
80年振りとはいえ、長い事こなしてきた作業のはずなのに、心臓が、ドクンと大きく鳴った。
(べ、別に……こんなの、全然たいした事じゃない……)
「いいわよ……どうぞ」
言い終わらないうちに、ガタッと音がした。
私は椅子の上で身体の向きをずらす。
彼女が私を食べやすいように----。
目をつぶり、小さく息を吐く。
本当に。
全然たいした事じゃない----。
この行為自体に、食事という意味以外のものは一切ないのだ。
(これは私の仕事、単なる作業……)
しつこいくらいに自分にそう言い聞かせる。
そう、これが私達の食事の仕方なのだ。
それが、例え、食事以外の行為を想起させるものであっても----。
ぱたぱたぱた。
この小さな足音だけは、今日が初めてだ。
モルガナの時は、いつも落ち着いた、だが、喜びを隠さないゆっくりとしたヒールの音だった。
「いっただきまぁす……!」
小さな捕食者は一直線に飛び付いて来た。
温かさと重たさを首から肩にかけて感じた、と思う間もなく、
「ん……ッ……!?」
唇に、柔らかいものが押し付けられる。
ほんのりと湿ったそれは、驚くほど懐かしくて、私は思わず目を見開いてしまう。
「んーっ、んん……っ……」
黒髪の少女は、文字通り貪るようにして私の唇を吸う。
ちゅうちゅうと、無心に、だが貪欲に私に口付けし、無慈悲に精気を吸収し続ける。
まるで蝶が花の蜜を吸うように、
まるで幼子が母の乳を飲むように----。
私達は貪り、貪られていた。
魔女と、その贄として----。
これが、かつて魔女モルガナであったとされる少女メリッサと私の、食事風景なのだ----。




