貪欲
ずっとこなしてきた、慣れた作業のはずなのに、心臓が、ドクンと大きく鳴った。
(べ、別に……こんなの、たいした事じゃない……)
「いいわよ……どうぞ」
私は椅子の上で身体の向きを変える。
少女が、待ちかねたという様子でこちらに駆けて来る。
私は、目をつぶり、小さく息を吐いた。
たいした事じゃない----。
この行為自体に、食事という意味以外のものは何もないのだ。
そう言い聞かせる。
それが、例え、食事以外の行為を想起させるものであっても----。
ぱたぱたぱた。
この足音だけは、今日が初めてだ。
モルガナの時は、いつも落ち着いた、だが、喜びを滲ませたヒールの音がゆっくりと近付いて来るのを聞きながら私は----。
「いっただきまぁす……!」
温かさと重たさを首から肩にかけて感じた、と思う間もなく、
「ん……ッ……!?」
唇に、柔らかいものが押し付けられた。
ほんのりと湿ったそれは、驚くほど懐かしくて、
私は思わず目を見開いてしまう。
黒髪の少女は、文字通り貪るようにして私の唇を吸い続けていた。
ちゅうちゅうと、無心に、だが貪欲に私に口付けし、精気を吸収する。
まるで蝶が蜜を吸うように、
まるで幼子が乳を飲むように----。
魔女と、贄のように----。
少女メリッサと私の、これが食事風景なのだ。