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朝食


「さてと、これで私の朝食は準備できたわ」


 一枚板のテーブルに乗っているのは、水に潜らせただけの薬草。

 たっぷりと残っている水滴が、葉や花の色を一層濃くしている。


 まだ使えるのかと心配したが、地下道の奥の井戸水は相変わらず冷たかった。

 おかげで私の指先はまだじんわりと疼いている。


「それ全部食べたら、死んじゃうんじゃない……?」


 薄暗い食堂で、私とパジャマ姿のメリッサはテーブルの端と端に向かい合わせに座っている。


 二人のちょうど真ん中にある金の燭台には、昔と変わらず蜜蝋の蝋燭が七本炎を揺らめかせている。

 テーブルクロスが掛けてあれば別なのだろうが、ニス引きもされていないテーブルには、いささか不釣り合いだ。


 メリッサは、心配してるというよりはむしろワクワクしているような表情で私と薬草を交互に見ている。実に子供らしい、といった感じの仕草だ。


「でも、私がこれを食べないと、貴女はごはんが食べられないんでしょう?」

「うん、アンソニーはそう言ってた」


 魔女のくせに司祭枢機卿の言う事なんかを信じているの、と意地悪の悪い返しをする代わりに、私は薬草の山から一掴み取ると、唇の間に押し込む。

ムワッとする青臭さが口に広がる。


「美味しい……?」

「……分からない」


 火刑から甦ったといえば聞こえは良いが、早い話が生きた死体のようなものなのだ。何を食べても私の舌はその仕事を忘れ、唾液を出すだけの器官と化していた。

 ただ、その方がありがたい。


 毒の味に一々感想を持たなければならないとなれば、私は絶対にこの場で向かいの少女の首を絞めているだろう。


 ダチュラの花を前歯で千切りながら、私は、ここはとりあえず神に感謝しておく事にした。 

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