魔女の墓場
この地は、総本山となる教会堂が建てられる遥か以前からネクロポリスと呼ばれ、埋葬地として利用されてきた。
私達の頭上にあるガラス張りの温室はその入口を隠すためにあり、階段を下れば蜘蛛の巣状に張り巡らされた地下道へと繋がっている。地下道の基礎は共同墓地の遺構であり、現在も無数の骨が横たわっているのだ。
私の暮らす地下室も、長大な地下空間の一部を改築したものに過ぎない。
そして、その地下空間は、魔女の墓場でもあった。
「それは……魔女を繋ぐための、鎖よ」
「繋ぐ……? どうしてそんな事するの?」
壁の上部、少女の背丈では指先すら届かない場所に、台座に固定された太い金輪が、所在なさげにぶら下がっている。
ベッドすらない殺風景な部屋で、それだけがやけに黒々とした影を伸ばしていた。
ここは、牢だったのだ。
「魔女が逃げないように、この部屋に閉じ込めていたの」
「どうして?」
私は答えあぐねる。
私がここに連れて来られた時には、既に魔女の数は減り、脱走などはなかった。
それでも魔女狩りの最盛期にはここには多くの魔女が連行され、押し込められていたらしい。
「勝手に死なせないため、かな……?」
魔女には二種類ある。
死にたくないと願う魔女と、
死にたいと願う魔女。
脱走を試みた者は、早々に目的を達する事ができたのか、あるいは……。
錆付いた金輪が、ゆらりと揺れたように見えた。
「でも……魔女は簡単には死なないわ」
死なない。
いや、死ねないのだ。
魔女は、死ねない----。