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「ねぇねぇ、こっちの部屋は本がたくさんある!」

 ぱたぱたぱた……。

 

 顔を洗うのもそこそこに駆け出した少女は、サンダルの音を響かせながら長い廊下を探索し始めていた。橙色のランタンの灯が、細長い石畳を忙しく行き来する。

 

 以前は蜜蝋の灯に照らされていた地下道は、ここに暮らすのが私一人になってからは闇に包まれたままだ。しかし、メリッサに怯んだ様子は全くない。


「こっちは……なんだ、何もないや……」

「使ってない部屋もあるからね」

 追い掛けるのはとっくに諦めて、私はランタンを持ってゆっくりと後から付いて行く。


 今のうちに色々と頭を整理しておきたかった。


 まず、アンソニーはメリッサを評して「血と肉」と言っていたが、それは思った以上に正鵠を得ているようだ。

 昨晩から今朝にかけての彼女は、ある瞬間は見た目相応の少女らしい振る舞いをし、かと思えばほんの一瞬、まるで心の臓を掴んで揺さぶるかのような圧倒的な美しさを見せたかと思えば、妙に幼いやりとりをする。


(この子は、器だ……モルガナの血と肉で作られた、モルガナの魂を受けるための……器……)


 メリッサの中には、メリッサという少女と、モルガナという魔女、二人の魂が混在しているのかもしれない。と思えば、納得がいく。


(でも、なぜ……?)


 死んだ生き物を再び蘇らせるというのは、魔法ではない。

 科学というものが発展してからは、条件が揃えば人間の手で行えるようになった、と聞いている。

(魂まで復活できるというのに、どうしてこんな幼い少女の姿にしたの……?)


「アイリス、どうしたの?」

 ぱたぱたと走って来た少女が腕を掴んで来た。

「ねぇ、あの部屋、何に使ってたの?」

 温かな掌の感触に、今更ながら地下通路の涼しさを実感する。

 ぐいぐいと引っ張られながら、私は突き当りに近い古びたドアの向こうを、そっと覗いた。

「ほらっ、あれっ! どうして壁から鎖が下がってるの?」

 あくまでも無邪気で、もっともな問い----。


 だが、私はしばらく返事ができなかった。

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