世界の行方
アリシアとともにシルランドから戻ったシュバルツは、キルケルに待機していた陣を率いるクライス王子に都へ帰るよう、ことの顛末を報告した。クライス王子がキルケルを引き上げると、宿に残していた侍女のミアをブラン城に呼び戻した。
一連の行動が、力を使うなとも言えないくらい素早く行われたので、アリシアは面白くなかった。結局、シュバルツの思惑の中で、どちらの国も踊らされただけのような気がした。
ブラン城では、何事もなかったかのように舞踏会へのカウントダウンが始まっており、姫君たちは、衣装選びなどに余念がなかった。リリアでさえ事情を知らされてはおらず、しばらく続いたアリシアの不在に、不満をこぼしていた。侍従長のメイデンは、もちろんアリシアの帰還を大喜びしたのだが。
夕暮れのバルコニーで、アリシアは涼んでいた。まだ日中は暑い日が続いていたが、日暮れは早くなり、時に秋らしい風が吹く。
「不満か?」
いつのまにかそばに来ていたシュバルツが、アリシアに声をかけた。
「人の振りをすると言いながら、やりたい放題だったことか?」
アリシアは振り向きもせず、嫌味を投げた。
「力で解決したことが、だ。どのみち、私はしたいようにする」
シュバルツはすぐ隣に来て、バルコニーの手すりに両手を置いた。
漆黒の髪が揺れ、マントに落ちる。茜色の夕焼け空を背景に、魔王の影は泣きたいくらい鮮やかだった。
「私は、他の何者でもないからな」
空を見て、シュバルツは言った。
世界をどうこうできるくらい、有り余る力を持って生まれた、魔王と呼ばれる男。それでも、アリシアが懸けた、何かを大事にしたいと思う気持ちは気まぐれではなく。
「結局、何がしたかったんだ?」
アリシアは、聞いた。
「...そうだな」
シュバルツは、アリシアを見つめた。
「私がいて、よかったと言ってくれたお前が、私の危機に、なりふり構わず駆けつけようとしてくれた」
「やっぱり、試したんだな」
途端にアリシアが不機嫌になると、シュバルツは笑った。
「そうでもしないと、お前は気づかない。セリーナたちに遠慮して、馬で外をうろうろしたあげく、赤毛の妹に誘拐までされたのは、誰だ?」
アリシアが言葉につまると、シュバルツは片膝をつき、そっとアリシアの手を取って、口づけた。
「さあ、王女。舞踏会の用意を」
ぎゅっと掴まれるような胸の鼓動を宥めながら、アリシアは、ある意味、人質になったような気がしていた。
花嫁選びの舞踏会当日。
宵闇の淡い紫のグラデーションを重ねたドレスは、アリシアを更に引き立てた。輝く金の髪は緩やかに波うち、背中に流れていた。ミアは、自分の仕上げに大満足していた。
「主催側がこういうのはどうも...」
と、まだ迷うアリシアに、
「尻尾を踏んだ責任は、ご自分でなんとかなさるものですわ」
ミアは言いきって支度を終えた。
舞踏会が始まった大広間へ、アリシアが脚を踏み入れると、その美しさに会場中に静かなどよめきが広がった。
壇上にいたシュバルツは、ゆっくりと降りてきた。皆が彼に道を開けた。
そうしてシュバルツは、アリシアの前に立つ。
アリシアがそっと差し出した手を取って、アリシアだけに聞こえるように、魔王は囁いた。
「...世界は、お前次第」
ここに来て覚悟を決めたアリシアは、花が咲くように笑った。
「では、誰もが自分の手で得られる幸せを守れるように」
シュバルツも笑う。
「お前が望むなら」
そして魔王は、王女を抱き締め、会場に高らかに宣言した。
「我が花嫁を紹介しよう!」
...Fin.
つたないながら、なんとか書き終えることが出来ました。読んでくださった方、本当にありがとうございました。




