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鶯の声は死神と共に  作者: lazilywalker
4/12

第一章 4, 長女と婿

『鶯の声は死神と共に』をお読みいただき、ありがとうございます。


本作は、五年前に起きた少年の失踪事件をめぐるミステリーです。


完結まで、毎日3話ずつ投稿する予定です。

最後までお付き合いいただければ幸いです。



第四章 長女と婿


桐谷和子について一通り整理したあと、AYAが次に開いたのは長女、桐谷恵理の資料だった。


四十八歳。


現在も桐谷姓を名乗り、夫の雅之と暮らしている。


「今度は二人一緒に見るんですか?」


あかねが聞いた。


「その方が分かりやすそうだから」


AYAは恵理の名前の隣に、夫の名前を加えた。


**桐谷恵理 四十八歳**

**桐谷雅之 五十歳**


二人が夫婦になるまでを、時間の順に追うことにした。


---


恵理は和子の長女として生まれた。


妹の沙織とは違い、地元を離れることなく育った。


容姿は特に目立つ方ではない。


学校でも人の中心に立つようなタイプではなく、自分から何かを始めたり、周囲を引っ張ったりすることも少なかった。


父親を早く亡くしてからは、母親の和子を手伝うことが増えた。


長女ということもあり、家事は一通りこなした。


料理をする。


洗濯をする。


掃除をする。


必要があれば妹の沙織の面倒も見る。


高校を卒業すると、市内では比較的大きな工場に就職した。


毎日決まった時間に出勤し、仕事が終われば家へ帰る。


特別派手な生活ではなかった。


恵理自身、それを不満に思っていたわけでもない。


桐谷家には、自分が残る。


恵理は若いころから、そう考えていた。


長女である自分が家を継ぐ。


結婚するなら、桐谷家に入ってくれる男性と結婚する。


和子から改めて言われなくても、それは恵理の中では決まっていた。


そのため、簡単に男性と付き合うこともできなかった。


誰かを好きになったとしても、結婚まで考えれば桐谷家の問題がある。


相手に名字を変えてもらえるのか。


この土地で暮らしてもらえるのか。


そんなことを考えるうちに、恋愛そのものから距離を置くようになっていた。


やがて恵理に、お見合いの話が持ち込まれた。


相手は、市役所に勤めている男性だった。


雅之。


五人兄弟の末っ子で、上には四人の兄がいた。


---


雅之もまた、目立つ人物ではなかった。


役所では真面目な職員として働いていた。


勤務態度に問題はなく、金銭面でも堅実。


容姿は悪いわけではないが、人目を引くようなタイプでもない。


服装も普通。


話し方も普通。


初対面で強い印象を残す男性ではなかった。


最初のお見合いも、特別盛り上がったわけではない。


雅之は話上手ではなかった。


恵理も、自分から次々に話題を出すような女性ではない。


それでも二人の会話が苦痛になることはなかった。


何度か会った。


食事にも行った。


雅之は五男の末っ子で、実家を継ぐ必要がない。


結婚後も地元で暮らすことができる。


桐谷姓になることにも、大きな抵抗はなかった。


やがて二人は結婚した。


雅之は姓を変え、桐谷雅之となった。


---


結婚したころ、恵理が雅之に抱いていた感情は、大恋愛と呼べるものではなかった。


一緒に生活していけそうな人。


真面目な人。


安心できる人。


そんなところから始まった。


しかし、一緒に暮らす時間が長くなるにつれて、恵理の気持ちは変わっていった。


雅之は派手なことをする人ではなかった。


仕事から帰れば、必要な家事を手伝った。


恵理が工場の仕事で疲れている日には、代わりに動くこともある。


和子にも自然に接した。


桐谷家の事情について何かを言われても、特に嫌な顔をすることはなかった。


家計が苦しかった時期には、自分の収入から生活を支えた。


役所から毎月入る安定した収入は、桐谷家にとって大きかった。


それまで余裕のなかった和子の生活も、少しずつ安定していった。


雅之は、いつの間にか桐谷家の中に溶け込んでいた。


和子も雅之を信用するようになった。


家のことで困ったことがあれば相談する。


役所の手続きで分からないことがあれば聞く。


家の修繕が必要になれば話し合う。


そうした日常が何年も積み重なった。


恵理にとっても、雅之との結婚生活は居心地のいいものになっていた。


お見合いで出会った夫を、恵理はいつしか心から好きになっていた。


そして二人は、子供を望んだ。


恵理にとって、それは桐谷家のためだけではなかった。


雅之との子供が欲しかった。


しかし、なかなか妊娠することはなかった。


恵理は不妊治療を始めた。


治療は続いた。


それでも、二人の間に子供が生まれることはなかった。


やがて恵理と雅之は、子供のいない二人での生活を続けるようになった。


夫婦関係が悪くなったわけではない。


雅之はその後も役所で働き、恵理も工場で仕事を続けた。


二人は変わらず桐谷家の離れで暮らした。


---


その後、沙織が悠真を連れて帰ってきた。


和子にとって初めての孫だった。


恵理にとっては甥になる。


雅之にとっても、桐谷家にやってきた初めての子供だった。


悠真は母屋へ頻繁に遊びに来るようになった。


和子は孫をかわいがった。


恵理と雅之も悠真をかわいがった。


悠真が成長してからも、その関係は続いた。


雅之は地域で仕事を続け、桐谷家との付き合いも長くなっていった。


和子にとって、雅之はもう「娘がお見合いで連れてきた婿」というだけの存在ではなくなっていた。


長い時間を一緒に過ごした家族の一人だった。


---


あかねが入力を終えた。


「こんなところですね」


AYAは画面を見る。


そこには、恵理と雅之が出会ってから現在までの経歴が並んでいた。


「雅之さん、結構長いんですね。桐谷家との付き合い」


「そうだね」


AYAはそれだけ答えた。


まだ、そのことに意味は付けなかった。


あかねが家族構成を開く。


残っている名前を見て言った。


「次は沙織さん?」


AYAはうなずいた。


「次は沙織さんを見よう」


新しいファイルが開かれた。


**桐谷沙織。**


十八歳で、桐谷家を出た女性だった。

※本作はフィクションです。登場する人物・団体・地名・心理描写は架空のものであり、実在の人物や事件について、その動機や内面を説明するものではありません。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

ペーストが重なってしまっていて申し訳ありませんでした。


物語は、五年前の失踪事件を追いながら、少しずつ真相へ近づいていきます。


続きは明日、3話投稿予定です。

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