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鶯の声は死神と共に  作者: lazilywalker
2/12

第一章 2、相原直人が桐谷直人になるまで

『鶯の声は死神と共に』をお読みいただき、ありがとうございます。


本作は、五年前に起きた少年の失踪事件をめぐるミステリーです。


完結まで、毎日3話ずつ投稿する予定です。

最後までお付き合いいただければ幸いです。

第二章 桐谷家


翌日。


AYAは、五年前の事件に関する資料を机の上に並べていた。


新聞記事、裁判記録、当時の報道、公開されている資料。


その横で、あかねがノートパソコンを開いている。


「まず、家族構成からまとめます?」


「そうしよう」


AYAは資料の一枚を取り上げた。


事件そのものを見る前に、まず関係者がどのような家族だったのかを整理することにした。


---


桐谷家は、地元では昔から知られた家だった。


広い敷地に古い母屋と、少し離れた場所に別棟が建っている。


桐谷和子、七十三歳。


和子には二人の娘がいた。


長女の恵理と、次女の沙織である。


和子は、桐谷家を絶やさないことを大切にしていた。


---


長女の桐谷恵理は四十八歳。


夫は桐谷雅之、五十歳。


雅之は地元の役場に勤めていた。


二人はお見合いで知り合った。


雅之は五人兄弟の末っ子だった。


実家には四人の兄がおり、自分が家や姓を継ぐ立場ではなかった。


結婚に際して、雅之は恵理の姓を選んだ。


そうして桐谷雅之となった。


恵理と雅之の間に子供はいない。


二人は桐谷家からそれほど離れていない場所に住み、折に触れて和子のもとを訪れていた。


---


次女の沙織は、若いころに地元を離れた。


美容師になるため、都会へ出た。


美容師として働いていたころ、一人の男性と交際するようになった。


その後、沙織の妊娠が分かり、二人は結婚した。


男の子が生まれた。


悠真と名付けられた。


結婚生活は、およそ五年間続いた。


離婚の理由は、夫から沙織へのDVだった。


離婚後、沙織は悠真を連れて地元へ戻った。


実家へ戻るよう勧めたのは和子だった。


当時、姉の恵理と雅之には子供がいなかった。


沙織と悠真は桐谷家へ戻り、敷地内にある別棟で暮らすようになった。


和子は母屋で暮らしていた。


同じ敷地ではあるが、生活する建物は別だった。


沙織はそこから地元の美容院へ通い、美容師として再び働き始めた。


---


その美容院を利用していた客の一人が、相原直人だった。


直人は岐阜県内で生まれ育った。


沙織と知り合ったころには両親はすでに亡くなっており、近しい身寄りはいなかった。


地元の学校を卒業したあと、県内の会社に就職していた。


犯罪歴はなかった。


過去に一度だけ、直人の名前が新聞に掲載されたことがある。


川で溺れていた女子中学生を救助したためだった。


その女子中学生が、水瀬美咲だった。


救助後、直人と美咲が継続的に連絡を取った記録はない。


---


直人は何度か沙織の勤務する美容院を訪れた。


沙織が直人を担当することもあり、二人は少しずつ話をするようになった。


やがて店の外でも会うようになり、交際を始めた。


沙織には悠真がいることも、離婚歴があることも、直人は交際中に知っていた。


直人は悠真とも会うようになった。


三人で食事をしたり、買い物へ出かけたりすることもあった。


交際を続けた後、直人と沙織は結婚した。


結婚に際して、直人は相原姓から桐谷姓に変わった。


相原直人から、桐谷直人になった。


---


結婚後、直人は沙織と悠真が暮らしていた別棟へ移った。


母屋には和子が住んでいる。


別棟には、直人、沙織、悠真の三人。


恵理と雅之は近隣の自宅で生活していた。


同じ敷地に住む和子と悠真は、日常的に行き来していた。


悠真は幼いころから和子によく懐いていた。


家族も、悠真を「お婆ちゃん子」と呼んでいた。


和子は悠真に、家を大切にするよう教えていた。


「桐谷家の人間として、恥ずかしいことをしてはいけない」


そう言われて育ったことを、後に親族が話している。


悠真は学校で生徒会活動に参加した。


高学年になると、自ら生徒会長に立候補した。


選挙の結果、悠真は生徒会長に選ばれた。


---


あかねがノートパソコンの画面を見ながら読み上げる。


「桐谷和子、七十三歳。母屋に居住」


「うん」


「長女、桐谷恵理、四十八歳。夫、桐谷雅之、五十歳」


AYAが資料を確認した。


「雅之さんは五人兄弟の末っ子。役場勤務。結婚して桐谷姓になった」


「子供はいない」


「はい」


あかねが続ける。


「次女、桐谷沙織」


その下に名前を入力する。


「夫、桐谷直人。旧姓、相原」


さらに一段下へ。


「桐谷悠真。沙織さんと前の夫との子供」


AYAが画面を見る。


「住居も入れておこう」


「母屋が和子さん」


あかねが入力する。


「別棟に、直人さん、沙織さん、悠真君」


「恵理さんと雅之さんは近所の別宅」


「はい」


入力を終えると、画面には桐谷家の家族構成が並んでいた。


あかねがファイルを保存する。


――桐谷家・家族構成。


「これでいいですか?」


AYAは画面を確認した。


「うん」


「次は?」


AYAは机の上に置かれた別の資料を手に取った。


「直人さんが桐谷家に入ってから、事件が起きるまで」


あかねが新しいファイルを開く。


「何年分です?」


AYAは資料の日付を確認した。


「結婚したところから全部」


「分かりました」


画面には、まだ何も書かれていなかった。


そこから先に何があったのか。


それを調べるのは、これからだった。

※本作はフィクションです。登場する人物・団体・地名・心理描写は架空のものであり、実在の人物や事件について、その動機や内面を説明するものではありません。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語は、五年前の失踪事件を追いながら、少しずつ真相へ近づいていきます。


続きは明日、3話投稿予定です。

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