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王太子に転生しましたが、何故か悪役令嬢に土下座をしました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第27話【最終会議ーー王太子の選択】

 話し合いの翌日午後、再び会議室にて王室会議が開かれた。

 出席者は昨日と同じような感じ。

 ただ、人数は多い気がする。

 貴族達の俺を見る目は冷たくて、劣勢を始まる前から感じさせた。


「これより、王室会議の続きを行う」


 陛下《父上》が宣言をした。

 とうとう始まったな。

 重々しい空気が会議室に広がっている。


「本日は、王太子レオポルドの婚約問題に関して、最終的な判断を下す事になる」


 宰相の言葉で、今日の概要がいようを説明していた。

 これしかないだろうな。

 オリエッタ嬢は扇子を口元に隠して、空気感をものともせず微笑みを維持していた。

 続くようにアルマータ派の貴族達は優越感ゆうえつかんに浸っている。

 俺が負けると思っているんだな。


「最初に、よろしいでしょうか?」


 オリエッタ嬢が立ち上がって、笑みのまま俺を凝視した。


「何だ。申してみろ」


 父上が発言を許可した。


「殿下の私情は、王室の信頼を大きく損ないました。偽装の婚約を行い、ユリアナ様との再縁も過去の破棄を無視ししたもの。王太子として相応しくありません」


 オリエッタ嬢は俺を口撃して、信用を落とそうとしていた。

 今って、格好の状況だからな。


「国益を無視した私情優先は許されん」


「外交にも影響が出る」


「王太子としての自覚はあるとは言えないな」


 アルマータ派の貴族達が同調して、俺を批判していた。

 誰もがにらみ付けるような目をしている。


「年少であるがペテル殿下の方が良いかもしれないな」


 弟の名前まで出してきた。

 俺よりも弟の方を王太子にするつもりなのか。


「私でしたら、殿下を支える覚悟がございます」


 オリエッタ嬢は、自薦して俺と彼女と結ばれることを誘導しようとしていた。

 この王室会議の場にて、反論できないように。


「国を第一にお考えください」


 念を押すように、言葉を締めくくった。

 この場で考えが変わると思っているのだろうか。

 拍手と共にオリエッタ嬢は席に座った。


「殿下、結論を述べよ」


「はい」


 宰相は俺に言葉を振った。

 立ち上がって、口を開く。


「俺はユリアナ・フォン・ルイッツホーフ嬢を選びます」


 ざわめきは、さっきよりも会議室を包んでいく。

 オリエッタ嬢が言ったって、変わらない。


「やはり私情を優先か」


 貴族の一人が睨み付けたまま、そう飛ばしてきた。


「そしてーー」


 軽く息を吸う。


「クレア・ユングホルツ嬢の二人を選びます」


 一瞬、会議室はざわめきではなく、沈黙が流れていった。

 周囲が目を丸くしている。


「何を言っている!?」


 沈黙を破るように、声が飛んできた。


「正気か!?」


「私情を重ねすぎだ!」


 貴族だけではなく、王族からも怒りの声が。


「レオポルド、それはどういう意味だ」


 父上が冷静に問いかけた。

 怒りも困惑も声には感じない。


「言葉の通りです」


 声は震えず、淡々と答えていく。


「王太子の座を失っても構わない。廃嫡になっても構わない」


 覚悟に未練は感じなかった。


「それでもーー」


 息を軽く吸う。


「二人と一緒にいたい。これが俺の最終的な答えです」


「そうか。ユリアナ嬢にクレア嬢も同意しているのか」


 父上は俺の回答に頷いた後、今度は二人に問いかけた。

 それと共に、二人は立ち上がる。


「わたくしも、殿下の選択を受け入れます。もう逃げませんわ」


 先にユリアナ嬢が口を開く。


「私は殿下の幸せを願っています。それがユリアナ様と共にいることなら、私はそれを受け入れます」


 続いてクレア嬢も答えていった。

 回答が終わると、さらに会議室が大きくざわついていった。


「ふざけるな!」


「婚約とは何だと思っているんだ!?」


「王太子の立場を理解しているのか!」


 アルマータ派の貴族達の反発の声は激しく、厳しい目が向けられた。


「理解しています」


 俺はそれに対して、強めの声で答えた。


「その上で、言っています」


 続けた声に対して、すぐに貴族達は反論した。


「ならば尚更なおさらあり得ん!」


「前例も無い!」


「許されるはずがない!」


 二人選ぶという事は無い。

 だからこそ、反発は大きいのだろう。


「そうでしょうね」


 ユリアナ嬢はこの状況に対して、冷静に呟いていた。


「希望では通らないのだ!」


「ここは遊びではない!」


「静まれ」


 父上の声は反発している貴族達の声を遮るように、言い放った。

 沈黙が会議室に流れていく。


「レオポルド、覚悟は出来ているか?」


「はい」


 父上の言葉に対して、迷うことなく返事をする。


「貴族達の言うとおり前例はほぼない、異例の事態だ」


 説明した父上の言葉。

 なおさら、状況が重くのしかかる。


「二人を幸せにして、国民を失望させないか?」


「勿論です」


 破棄をしたものを再縁。

 一人ではなく、二人を選ぶ。

 生半可なまはんかな覚悟では、乗り切れない。

 それでもなぜか、はっきりと返事が出来ていた。


「分かった」


 少し考えた後、父上はそう重い口を開いた。


「覚悟を認めよう。特例として、ユリアナ・フォン・ルイッツホーフ嬢とクレア・ユングホルツの二人を、レオポルドの正室として認めよう」


 会議室は一瞬、凍りついた。

 思ってもみなかった結果なのだろうか。


「陛下、大変恐縮ですが、待っていただけますか?」


 オリエッタ嬢がさえぎるように、立ち上がった。

 言葉はさっきよりも冷たく感じる。


「どうしたのだ、オリエッタ嬢」


 父上は発言を許可した。

 扇子を胸の前に構えながら、さっきよりも澄んだ声で言葉を発する。


「このような前代未聞の特例は、王室の伝統を破壊するものにございます。アルマータ家を代表して、廃嫡の審議を即時に行うよう、正式に要求いたしますわ」


 笑みを見せながら、俺を潰そうとしようとしていた。

 アルマータ派の貴族達は同調していた。


「そうだ!」


「レオポルド殿下は、自覚があるとはいえない!」


 貴族達の声の後、オリエッタ嬢はさらに言葉を続けていく。


「それにレオポルド殿下が王太子の責務を放棄されるのであれば、ペテル殿下を次期王太子としてお考えになるべきではございませんか?」


 二人を選ぶのが放棄したって捉えられているのか。

 俺ではなく、ペテルが相応ふさわしいって思っているんだな。

 オリエッタ嬢って、一度は俺と結ばれようってしていたのに。

 貴族達は頷いていた。


「ペテル殿下はまだお若いですが、国の未来を真に考えられる方。私、オリエッタ・ツー・アルマータが、側近として全力で支えていただきますわ。殿下のご負担を軽くするためにも、これは最善の選択かと存じます」


 俺を優しく見つめながら、提案をしていった。

 ただ彼女の目には、挑発するような軽蔑けいべつを込めているようだった。


「将来的には、殿下のお傍を離れず、しっかりとお支えできる存在になりたいと思っております」


 やはり結ばれたいんだな。


「そうだな。オリエッタ嬢はペテル殿下と結ばれても良さそうだ」


 貴族の一人が賛同していた。


「ただ、兄上を裏切れない。そんな可愛らしいお言葉を、ペテル殿下から伺いましたの。でも、王族として国を優先されるのが、本当の愛情ではございませんこと?」


 オリエッタ嬢の発言によって、会議室の空気は張り詰めた。

 国を優先するのが愛情って、俺を批判しているのだろうか。

 俺の表情が強張って、ユリアナ嬢もクレア嬢も息を飲んでいた。


「殿下がお選びになる『愛』も結構ですけれど、王妃の座は、愛だけでは務まりませんのよ」


 張り詰めた状況においても、笑みは崩さなかった。

 すると、ユリアナ嬢は立ち上がって口を開く。


「そうですわね。オリエッタ嬢の言われるとおり、国を優先して支えるのが王太子妃や王妃として重要な所ですわね」


 頷くようにしながら、ユリアナ嬢はオリエッタ嬢の言葉を肯定していた。


「ところで、貴女には愛情がありますの?」


 冷静に見つめるように問いかけた。


「ありますわ。王太子のために尽くす愛情が」


 オリエッタ嬢は、尽くす相手の名前を出していない。


「そうですのね」


 ユリアナ嬢は頷きもせずに、相づちを打った。


「わたくしも、婚約者として『完璧な王妃』になるべくレオポルド殿下を支えていましたわ」


 それは婚約破棄する前の事。

 彼女はずっと完璧でいようとしていたっけ。


「ですが、結果としてわたくしは一度、破棄されました。殆ど説明されずに」


 ユリアナ嬢は思い出すようにしながら、俺がしたことを打ち明けていく。


「『完璧な距離』のまま、接していたからこそ上手くいかなかった」


 あの日の返信。

 完璧な距離だからこそ、誰にも届かなかった。


「貴女はわたくしと同じように、いえ愛情も出さずに完璧さを出している。それが上手くいくのかしら?」


「ユリアナ様よりは上手くいきますわよ。だって、レオポルド殿下ではなくペテル殿下ですから」


 人が変われば、状況が変わる。

 そう言いたいのだな。


「君は、誰を愛しているんだ?」


 ふと彼女に問いかけた。

 先日会ったときには、俺を愛していると言っていた。

 今はペテルを支えると言っている。

 まるで、風見鶏かざみどりみたいな感じだ。


「私は国を愛していますの」


 確かにその考えは間違っていないかもしれない。

 国を愛するからこそ、王家や国を正しい道へと導けるからな。

 ただ、少なく感じる。


「オリエッタ様は、国を愛しているかもしれませんが、人を愛していないですね」


 今度はクレア嬢が口を開いた。


「人への愛だけで、王太子妃が務まりませんから」


 オリエッタ嬢は狼狽うろたえることなく、答えていく。


「愛を優先する殿下は、王国を乱そうとしていますわ。外交だって上手くいかなくなったらしいですし」


 そして妖艶ようえんな笑みを見せながら、再び俺を叩こうとしている。


「確かにその部分はあったかもしれません」


 クレア嬢は軽く頷いて、部分的に肯定する。


「それでも殿下とオリエッタ様は違います」


 だがその上で、クレア嬢はオリエッタ嬢を否定した。


「私はかつて、殿下と結ばれる未来を夢見ていました。そのために実際、動いていました」


 クレア嬢が思い出しながら、言葉を続けていく。

 動いていたっていうのは、ゲームのヒロインとして、信じていたからだろうな。


「でも、殿下がユリアナ様を本気で愛し謝罪しようとしていると知った時、自分の気持ちを抑えました。それが愛だと思ったからです」


 静かに語りかけるように、それでも強い眼差しでオリエッタ嬢を見つめた。


「それから殿下が幸せになる道を、ずっと見てきました。地位や権力ではなく、殿下自身を支えたいと思ったからこそ、ここまで来ました」


 強い眼差しのまま、笑みを見せる。


「オリエッタ様、あなたは愛を抑えたことなど、一度でもありますか?」


「……いえ」


 クレア嬢はそう問いかけているが、オリエッタ嬢は初めて言い淀んでいた。


「ユリアナ嬢は、俺を愛してくれていたからこそ、王太子妃として完璧になろうとした。その完璧さに俺は耐えきれず、逃げて婚約を破棄した。あの時の俺は愚かだった」


 俺はゆっくりと口を開き、オリエッタ嬢に話していく。

 ユリアナ嬢の想い、今だからこそ全て受け入れられる。


「そして謝罪をした時でも彼女は完全に拒絶することなく、受け入れてくれた。ユリアナの愛は綺麗に咲き続けていた」


 オリエッタ嬢に言いながら、送った手紙や描いた絵のことを思い出していった。


「クレア嬢は完璧に動けば少しのイレギュラーがあっても、俺を完全に手に入れられたはずだ。それなのに、完璧さを捨てて俺とユリアナ嬢のために支えようとした」


 ゲームと同じ世界だったからこそ、ハッピーエンドが見えていた。

 それでも捨てるのは、覚悟がいるだろう。


「愛を抑えたかもしれない。だが、クレアの愛は美しく輝き続けていた」


 二人の愛は形が違うかもしれない。

 だけど伝わってくる。


「でも君の完璧さは違う。最初から『王太子妃の座』を手に入れるために、完璧に振る舞っている。放棄の出来ない、絶対的なものだ」


 言い放った後、俺は二人を見つめる。


「俺は二人のこの想いを受け止めた。オリエッタ嬢、あなたが欲しているのは、『王太子妃の座』だ。俺達が欲しているのは、『この二人と共に生きること』だ。その違いが分からないのか? 君の愛は後付けにすぎない」


 畳みかけるように、俺はオリエッタ嬢に突きつける。

 彼女は考えるようにしていたが、やがて何も言えなくなっていた。

 アルマータ派の貴族達も、言葉が出てこないようだ。


「オリエッタ嬢、まだ続けるのかね?」


 父上がそう問いかける。

 しかし、会議室には沈黙が流れ続けた。


「もう十分だろう。これ以上、弟を利用して兄をおとしめようとするな。下がれ」


 オリエッタ嬢は扇子をゆっくりと閉じて、優雅ゆうがに一礼をした。


かしこまりました。今回は、私の負けですわ」


 席に座ることなく、そのまま会議室の出口へと向かっていった。


「ですがーー王国の未来を案じる者として、殿下の決断を見届けさせていただきます」


 そう言い残し、オリエッタ嬢は会議室を後にする。

 会議室を出る最後まで、微笑みを崩さずに歩いていた。

 その背中は美しく、しかし悔しさが滲んで見えている。

 彼女が出ていった後、父上は俺に目線を向ける。


「さて、レオポルド。今回のことは、我が王国の歴史において異例の措置であることを、よく心得よ。二人が王太子妃として相応しいか、今後お前自身が証明するのだ」


 その言葉と共に、俺は父上に向かって一礼する。


「ありがとうございます」


 さらにユリアナ嬢とクレア嬢も頭を下げた。


「よし、これにて今回の王室会議は終了しよう」


 少しして、父上の宣言によって会議は終わりを迎えたのであった。


「愛を選ぶ覚悟もまた、王としての資質である」


 宣言の直後、父上は俺にそう告げた。


「その決断が正しかったと証明してみせよ、レオポルド」


 俺は無言のまま頷いたのであった。

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