表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王太子に転生しましたが、何故か悪役令嬢に土下座をしました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/30

第22話【微笑む令嬢】

【オリエッタ視点】


「なるほど」


 この時私は、レオポルド殿下がユリアナ様やクレア様と一緒にいる状況を、柱の影から見ていた。

 私と殿下が結ばれるって、王宮や貴族内では決まりかけていましたのに。

 つまり私が、王太子妃になれたはず。

 まさか、殿下とクレア様が婚約を結ぶことになるとは。

 それを聞いて驚きましたが、そこへユリアナ様がやってくるなんて。

 嫉妬なのでしょうか。

 修羅場が起きているのは分かります。

 クレア様と話し合った後に、ユリアナ様が走り去ろうとして、追いかけながら殿下が止める。

 そして殿下とユリアナ様は、本心をぶつけていた。


「クレア様との婚約は、時間をつくるためのものだ」


 殿下が言い放ったのは、さらに驚くべきもの。

 本当はユリアナ様を選ぼうとしている。

 つまり、クレア様とは本当の婚約ではない。

 扇子を閉じて、私は微笑ほほえんだ。


「オリエッタ様?」


 伯爵令嬢はくしゃくれいじょうのミリア嬢が心配そうに訊いてきた。

 彼女は私と一緒に、様子をうかがっていたから。


「何でもありませんわ」


 笑みを崩さずに、返事をする。


「クレア様は、”仮”の婚約なのね」


「仮、ですか」


 殿下達のやりとりで、完全に分かりました。

 立場を守るために、偽りを行うなんて。

 でも、分かりますわ。

 彼が愛しているのは、ユリアナ様ですからね。


「王太子殿下は、婚約者を失ったままではいられない」


「クレア様に決まろうとしていますが、現在も不在でしたね」


 一ヶ月が経とうとしている。

 再縁が出来ていないのであれば、王太子として危うい状況。


「だから時間を作った」


 ミリア嬢は私の話にうなづいていた。

 そして私は微笑んだ。


「面白いわ」


 この状況、どうなっていくのかしらね。

 私には派閥の貴族がいますけれど。



 ユリアナ嬢が王宮にやってきた翌日。

 窓の外は曇り空で薄暗い。

 俺は公務の合間に執務室で考え事をしていた。

 考える内容は、ユリアナ嬢に関すること。

 彼女は涙を流しながら、彼女の本音を聞いた。

 もし追いかけなかったら、取り返しの付かないことになったかもしれない。


「ユリアナ嬢の『まだ怖い』という言葉が、胸に刺さる。でも、俺はもう逃げない」


 彼女がそう打ち明けていたからこそ、時間を稼がないといけない。

 クレア嬢と婚約を結ぶという状況にしないとな。


「殿下、ちょっとよろしいでしょうか?」


 レーナが紅茶を持ってきながら執務室へ入ってきた。


「どうしたんだ?」


 慌ててはいないものの、少し冷や汗をかいている。


「王宮内で噂が広まっています」


「どんな噂だ?」


 広まるのはおかしくないが。


「殿下の婚約についてです」


「俺の婚約?」


 気になったので、俺は執務室を出ていって噂を直接確かめることにした。

 どんな噂が広まっているのだろうか。

 少し歩いていると、噂話は聞こえてきた。

 俺は気づかれないように、聴いてみることに。


「クレア嬢の婚約は仮らしい」


「王太子殿下はユリアナ嬢をまだ諦めていないとか」


 秘密にしていたことが貴族達に知られている。

 確かに昨日、王宮内でユリアナ嬢に話したが、ここまで広まるのか?


「婚約を政治利用しているのか?」


 貴族達がざわついている。

 誤解じゃないけれども、時間稼ぎのためには何とかしないと。

 ただ、そこへ。


「皆様」


 オリエッタ嬢がやってきた。

 優雅ゆうが微笑ほほえんでいて、落ち着きがあった。


「王太子殿下はお優しい方ですから」


 一拍、間が流れる。


「昨日の”お話”も、つい聞こえてしまいましたの」


 ゆっくりと丁寧にオリエッタ嬢は打ち明けた。


「情に流されてしまったのかもしれませんわ」


 説明するようにしながら、俺の印象を決めようとしているようだった。

 訂正したいが、ややこしくなるだけかもしれない。

 だが、貴族達に悪印象を与えるわけには。


「クレア嬢の”思いやり”で」


 扇子で口元を隠しながら、微笑んでいる。


(ここで出るべきか?)


 一瞬、迷った。

 だが。


「オリエッタ嬢」


 俺は気がつくと声を発していた。


「変なことを言わないでもらいたい」


 そして彼女の前に出てきていた。

 何故か言葉に悪意を感じたから。


「あら、殿下。聞いていらしたのですか?」


「気になったからな」


 貴族達はそそくさと、移動していった。


「勘違いなさっているようですが、私は陰口など叩いておりませんわ」


 笑みを崩さずに、俺を見つめていた。

 確かに表向きだけみたら言っていないのかもしれない。


「情に流されたけれど、殿下はお優しいと」


 軽く拍手をして、会話を続けていく。


「クレア嬢の思いやりがあってこそ、ですから」


 何だろうな、悪役令嬢ユリアナ以上に悪役令嬢っぽい。

 ただ言い返すことは出来なかった。


「ですので、気にしすぎですわ」


 扇子で口元を隠した。


「殿下、仮であるならば廃嫡を覚悟しなくてはいけませんわ」


「それは分からないな」


 仮じゃなくなればいいのだからな。


「そうですわね、また後日」


 扇子を閉じて歩いていった。


「広まっていたな」


 執務室に戻ると、俺はクレア嬢につぶやいた。

 クレア嬢は隣から資料を持ってきていた。


「私と殿下の婚約ですか?」


「ああ、仮であることも知られていた」


 ため息を吐きながら、苦笑いをする。


「確かに知られる可能性はありましたが、昨日の場面では」


「そうだよな」


 王宮の中で打ち明けちゃったからな。

 知られるのは時間の問題だったんだろうな。


「あと、オリエッタ嬢と少しだけ揉めた」


「何をしているんですか」


 眉をひそませ、呆れながら俺を見つめていた。


「クレア嬢を悪く言っているように感じてな」


 ため息を吐き、正直に話していく。


「感じてって、本当に言っていたんですか?」


「分からない。オリエッタ嬢は言っていないと」


 そのまま伝えると、軽くクレア嬢は頷いた。


「見ていないので分かりませんが、今のタイミングは殿下の立場に関わりますよ」


 忠告をクレア嬢からされる。


「そうだな」


 カチンと来てしまったのは、俺が悪いな。


「でも、少しだけ嬉しいかな」


「えっ」


「私のことで揉めたのですから」


 顔をほんのり赤くしているクレア嬢。

 その様子は、ヒロインの姿だった。


「まあな」


 少しだけ嬉しくなってしまう。

 オリエッタ嬢と揉めるのは良くなかったが。



【クレア視点】


 殿下がオリエッタ嬢と揉めてから数日後。

 私は書庫を出て、王宮内の回廊かいろうを歩いていた。


「クレア様」


 誰かに呼び止められた。

 振り返ってみると、オリエッタ様が立っていた。

 扇子を開いて微笑んでいる。


「オリエッタ様、ごきげんよう」


「ええ、こちらこそ」


 笑みを見せたままで、私に近づく。


「婚約おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 当然知っているから、私はそのまま感謝をする。


「でも」


 オリエッタ様はさらに一歩近づいた。


「偽物の婚約は大変でしょう?」


 彼女の言葉で、持っていた資料を少し落としそうになった。

 持ち直したので散らばることはなかったけれど。


「私、全部知っていますの」


 微笑みながら私を見つめてくる。


「王太子殿下は、ユリアナ様を待つために」


 一拍置いて、笑みを強めた。


「あなたを使っているのでしょう?」


 図星だから、何も言えない。


「そして、それを”知っていながら”受け入れている」


 彼女は完全に把握していた。

 沈黙が回廊に流れていく。


「かわいそうですわ」


 露骨ろこつに悲しそうな表情を見せた。

 一気に変えられるなんて。


「愛されない婚約者なんて」


 何を思って言っているんだろう。


「それでも殿下の隣に立つと決めたのですわね」


 私を察して、言っているのか分からない。


「愛されないって、そんなこと」


 事実かもしれない。

 だけど私は言い返したかった。

 モヤモヤする。

 ヒロインとして愛されたい気持ちはあったから。


「ええ、そうです」


 だけど、少し吹っ切れて肯定した。


「殿下は私を愛していません」


 すると悲しそうな表情は少し驚いていた。


「だけど」


 軽く息を吸った。


「それでも私は、殿下の隣に立ちます」


 私は彼女に言い放つ。


「クレア様、安心してください」


 再び、オリエッタ様の表情は笑みに変わった。


「私が殿下を救って差し上げます」


 前世で見た、通販番組みたいな表情。

 おまけでもつくのかしら。


「どういう意味ですか」


 私はいぶかしげな表情で、訊いてみた。


「王室会議が開かれます」


 オリエッタ様の言葉で、私は目を丸くした。

 正式な婚約は王室会議で決まるはず。


「そうなれば」


 オリエッタ嬢は口元を扇子で隠した。


「婚約は無効になります」


 その言葉を聞いた途端、私は歯ぎしりをした。


「あなた、私だけじゃなくてユリアナ様までも!」


 無効になれば、時間稼ぎだって無駄になってしまう。

 婚約が決まっていない状況に逆戻りに。

 すると殿下は廃嫡になって、ユリアナ様と再縁することも不可能になる。

 それが狙いなのね。


「まあまあ、まだ決まりではありませんの」


 私をなだめるように、落ち着いた口調を続けている。


「王太子妃は、王国の安定のために選ばれるべき」


 言葉を続けたまま、じっと私を見て微笑む。


「恋愛ではなく」


 そして扇子を閉じた。

 踵を返し、私から背を向ける。


「政治で」


 去り際に、そう言い残して。

 私も冷静になれなかった。

 やはり、前世で遊んでいた次回作、『恋と王冠とティータイム2』のライバル。

 手強い。


「クレア様!」


 オリエッタ様の後ろ姿を見ていると、レーナさんが慌ててやってきた。


「どうしたの?」


 息を切らせ気味でレーナさんは答えた。


「数日後、王室会議が開かれます」


 全てが決まる場が、ついに来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ