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王太子に転生しましたが、何故か悪役令嬢に土下座をしました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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第15話【変わった証拠、最初の公務】

【ユリアナ視点】


 朝、わたくしは食堂で紅茶を飲みながら、窓の外から見える景色を見ていた。

 いつも見えている王都の日常が始まろうとしている。


「お嬢様、王宮からの報告書です。本日のレオポルド殿下のご予定が書かれております」


 サルチャクがやってきて、紙を受け取った。

 受け取った紙には、殿下が行う予定の公務が書かれている。

 これはわたくしと殿下が一緒に行っているから動けるものですのに、一人で行おうとしている。こなせるわけがない。


 孤児院慰問、貴族会議、隣国大使との昼食会、令嬢達との茶会。


「殿下が、一人で?」


 わたくしはサルチャクに聞き返した。

 だってかつてはわたくしが隣にいて、子供達に笑顔を振りまき、貴族に一言で場をまとめ、大使に微笑みかけていた。

 それを殿下一人でこなそうとしている。


「どうして、こんな急に」


 手が震えて、カタカタとカップに入った紅茶の水面が揺れる。


(殿下は、わたくしがいなくなってから……本当に変わろうとしているの? それとも、わたくしがいないことで苦労することを、実感しようとしているの?)


 一息吐いて自室に戻る。

 そして机の中に隠していたスケッチブックを取り出した。

 スケッチブックには、公務の合間に描いていた、殿下の横顔が。

 「記録として」、言い訳はしていたものの、何度も描いていた。


「わたくしも、完璧でいようとして、いつの間にか殿下を追い詰めていたのかもしれませんわね」


 少し声が震えながら声を出していた。

 頬に熱いものが伝っていく。

 それははっきりとした、涙であった。


(殿下、頑張ろうとしているのね。でも、そんなに苦労するなんて。わたくしがいなくても、変われるの?)



 次の日、朝の執務室。

 机の上には、資料の山が出来上がっていた。


「……これ全部、今日中に?」


 俺は死んだ目をしながら眺めて、クレア嬢に問いかけていた。


「はい。ユリアナ様なら、朝イチで視察、午後に外交、夕方に社交……全部こなしていましたよ」


 クレア嬢は微笑ほほえみながらも、淡々と答えていった。

 ハードなスケジュールだな。

 よくこなせていたな、って思ってしまう。


「俺、破棄まで何をしていたんだよ」


 記憶ははっきりしているが、俺自身にツッコんでいた。


「殿下はいつも、ユリアナ様の隣でうなづいていらっしゃいましたね」


 レーナはにこやかに話していく。


「それが仕事だったのか!」


 ほとんどユリアナ嬢がやっているものじゃないか。

 むしろそれで、よくいけていたな。


「それに殿下、婚約破棄からこれまでは緩衝期間かんしょうきかんでした」


 クレア嬢がそう言い放つ。


「そうだったのか」


 婚約破棄後から数週間、最低限の公務だけで済ましていたな。

 いや、周囲がそうしてくれていたんだな。


「さて殿下。では本日最初の公務です」


「もうしないといけないのか!?」


 朝イチで公務だなんて。

 早いって。


「はい。これから孤児院へ慰問いもんに伺います」


 しかも王城から出ることになるなんて。

 だが子供達と会うのは悪くないかもしれない。


「分かった」


「私はここで補助できるものをしておきますので」


 クレア嬢は苦笑いしながら伝えてきた。


「ありがとう」


 俺は馬車に乗り込んで、孤児院へと向かった。

 補助のために一緒にレーナが乗り込んでいる。


「いつも通りで大丈夫ですからね。笑顔で子供達と接すれば」


「ああ」


 顔を少し下げながら返事をする。

 レーナはそう言ってくれるが、本当にそれでいいのか。

 馬車は問題なく孤児院へ。

 お菓子が入った袋を持ちながら降りると、子供達は嬉しそうに駆け寄ってきた。


「王太子様ー!」


「お菓子だー!」


 子供達は喜んでいて、笑顔は嬉しくなる気持ちだ。

 俺は同じように子供達へ笑顔を見せる。


「よしよし、今日はたくさん持ってきたぞ!」


 袋を開けて、中に入っているお菓子の箱を取り出す。

 この箱は、クレア嬢が「殿下、これでどうぞ」と渡してくれた高級菓子。


「わー! きれいな箱!」


 箱だけでも喜んでいるようだった。


「これをみんなで分けてな!」


「ありがとう!」


 笑顔を見るだけでも、朝イチで来たかいがあったかな。


「王太子様、いつもユリアナ様が『みんなで分けようね』って優しく言ってくれたのに。今日はなんか違う」


 子供の一人がそう呟いた。

 それを聞いて、俺は一瞬凍りついた。

 純粋だからこそ、言えてしまうんだろうな。


「ユリアナ様の笑顔がないと、なんかさみしい」


 嬉しそうにしているけれど、ちょっとだけ頭を下げていた。


(俺の笑顔、こんなに不気味だったのか!?)


 子供達に囲まれているのもあって、俺は何とか笑顔を保っていた。

 ユリアナ嬢は悪役令嬢だったが、心から喜ばせることが出来ていたんだな。


「王太子様、顔が引きつっているよ?」


 子供が俺に対してそう言ってきた。

 よけい不気味になっているのか?

 すると、ついてきたレーナや孤児院の侍女がクスクスと笑いをこらえるような感じになっていた。

 おい、恥ずかしいな。

 それ以上変な空気にならなかったのが幸いだが。


「王太子様って、絵は描かないの?」


 ただ途中において、子供からそう言われた。


「まあ、描いているよ」


 正直これまで王太子に転生してからは、描いていなかったが。

 何か前世の記憶がさわいでいる。 


「見せて見せて!」


「ああ!」


 という事で、侍女から道具と紙を借りて描いていく。

 即興だから記憶の中にある、ユリアナ嬢のイラストを描くことに。


「何かユリアナ様とは違う感じ」


 描き上がったイラストを見て、子供は率直そっちょくに感想を言ってきた。

 同じ事をしているのに、違うと言われるなんて。

 ただもう一度イラストを見てみると、久しぶりに描いているから、線がぐにゃぐにゃで変な感じになっている。


(前世では、イラスト投稿サイトで評価を得ていたのに、今じゃ線がぐにゃぐにゃかよ!)


 ブランクがありすぎるな。

 ……昔は、もっと自然に描けていたのに。解消しないと。



「でもうまいかな」


 別の子供がそう伝えてくれたのが、幸いだったが。


「殿下、続いては王宮で会議です」


 王宮へ帰る馬車の中で、レーナが伝えてきた。


「休憩はあるのか?」


 そう問いかける。


「ありません」


 するとレーナははっきりと言い放った。


「うわぁ」


 俺は彼女の顔を見て、思わず声が出てきてしまった。

 休憩が無いなんて。

 とりあえず、王宮の別館にある会議室へ

 会議は午前中であったため、戻ってすぐに行われる形に。

 疲れは考慮こうりょされていない。


「お待たせしました」


 会議室には、貴族達がずらりとしている。

 俺は空いている席に座って、会議が始まった。


「レオポルド殿下、今回の税制改正案ですが」


 貴族の一人が俺に話しかけてきた。

 知っている人物で、そこまで驚きはしなかった。


「うん。これは、えっと……」


 書類をめくりながら、確認していく。

 どう言えば良いのだろうか。

 俺は言葉が思いつかず、しどろもどろになっていた。

 貴族達は疑問ぎもんに思いながら、俺を見ている。


「ユリアナ様なら、ここで『民の負担が増えすぎませんか?』と一言でまとめてくださったのですが」


 別の貴族が呟くようにユリアナ嬢の事を言ってきた。

 やはり、彼女はここでも上手くやっていたんだな。


「そ、そうだな! 民の負担が増えすぎませんか!?」


 俺は貴族が言ったことを、そのまま言ってしまった。

 語尾までユリアナ嬢にそっくりな感じで。

 貴族全員が静まり返っていた。


「それは、殿下の言葉ですか?」


 少しの沈黙の後、貴族の一人が問いかける。


「殿下、今のはユリアナ嬢のセリフ、丸パクリですね」


 さらに別の貴族が言い淀んだ後に感想を口にしていた。


(俺、何も考えていなかった! ただうなづいていただけだったのか!?)


 言い終わった後に気がついた。

 今回だって、何も考えていないのがはっきりしている。

 会議は微妙な雰囲気で終わっていった。

 糾弾きゅうだんされるといった事は無かったが。


「ユリアナ嬢がいらっしゃらないと、王太子殿下の判断が……」


 廊下で貴族達がヒソヒソと噂話うわさばなしをしていた。

 しかも俺に関することを。


「俺、ただの飾りだったのか」


 壁に頭をコツンとさせながら、俺は呟いた。

 何とかしないといけないのに。


「殿下、こちらにいらしたのですね」


 レーナがこっちにやってきた。


「飾りにみたいになっているのか? 俺って」


 俺が感じたことを、彼女に訊いてみた。


「そうですね。なっていると思います」


 すると歯に衣を着せぬ発言をしてきた。

 侍女なんだが、ちょっと毒舌な感じだよな。


「そうなのか」


 俺の顔は苦虫を噛みつぶしたような表情になった。


「さて殿下。次は隣国デグリア王国の大使と昼食会です」


 だがレーナは気にしていなかった。


「今すぐ?」


「はい。会議室の隣の晩餐室ばんさんしつで待機しております」


 休憩なしでそのまま移動。

 朝食から動きっぱなしだから空腹なので、昼食会は丁度良いかもしれないが。

 大使であるベリシエはニコニコとしていて、俺を好意的に見ているようだった。


「王太子殿下、今日はお一人でしょうか? ユリアナ様のご機嫌はいかがでしょう?」


 ただ彼が挨拶に使ったセリフは、婚約破棄の事実を知らないように振る舞っているように見えた。

 対外的には知っているはずなのだが。


「ええ、まあ。色々と」


 苦笑いしながら曖昧あいまいに返事をしていく。

 わざとやっているのか?


「とりあえず、昼食にしましょうか」


「よろしくお願いします」


 俺と大使は向かい合うように座って、食事を進めていく。

 朝から公務を二件済ませて、空腹になっていたため、より美味しく感じる。


「やはりこの国の料理は美味しいですね」


「この国一番の料理人が作っていますから」


 嬉しそうにしながら大使はフォークを動かす。


「一人よりも、複数人と一緒に食べる方が美味しいですよね」


「そうですね」


 心を落ち着けながら、俺も味わいながら食べていった。

 会話はなかなか弾まなかったが。

 肉料理になった時、また大使が口を開く。


「ふふ、婚約者不在とは寂しいものですね。うちの王女なら、いつでもご用意できますが?」


「は、はは……それはお気遣いを」


 ここまでぼかしていたのに、大使は核心に触れてきた。

 気がつけば、心臓がバクバクとしていた。

 やはりわざとじゃないか。


「ユリアナ様がいらっしゃると、会話が弾むのに」


 するとフォークを置いて、あきれたようにそう言葉を放った。

 それは俺を批判ひはんしているのか?

 だが、そう思われてもしかたないのか。


(彼女がいると、俺は何も喋らなくても場が回ってた……! 俺、ただ座っているだけだった!?)


「申し訳ありません、ご不快な気持ちになられたのであれば、謝罪いたします」


 大使は俺が苦笑いになっているのを見たのか、そう謝ってきた。

 さっきのは本心だったが、外交の場だからな。


「いえ、お気になさらず」


 また微妙な空気になって、デザートを食べ終わったことで食事会は終わった。

 途中から、料理の味がそこまで感じなかったが。


「王女の件、ご検討をお願いします」


 食事会が終わったときに、大使からそう言われたが。

 やはり近いところまで来ているんだな。

 俺は胃を押さえながら、執務室へ向かった。


「さて、王宮の庭園にて、貴族令嬢の茶会に参加してください」


「またなのか」


 ため息をつきながら返事をする。

 さっき昼食会をしたのに、今度は茶会って。

 胃の中に料理が残っているんだが、大丈夫なのか。


「今度は茶会です。それに貴族令嬢とです」


「ああ」


 休憩は多少あったものの、庭園へと向かうことになった。

 昼食会が結構時間が掛かっているのもあったから。


「レオポルド殿下、本日はご参加頂き、光栄に思います。また、場所を使わせていただき感謝いたしますわ」


 主催であろう公爵令嬢こうしゃくれいじょうが俺に挨拶してきた。


「こちらこそ、呼んでいただいて感謝するよ」


 形の上で挨拶を済ませる。

 そして案内された席に座って、紅茶を飲むことに。

 わいわいと庭園において、令嬢達が盛り上がっていた。


「王太子殿下、今日はユリアナ様がいらっしゃらないのですね」


 参加者の令嬢が紅茶を一口飲んでそう呟いていた。

 いつも参加していたからな。


「あ、ああ。今日は俺一人で」


 必死に紅茶を飲みながら、誤魔化していく。

 熱さはあるが、上手く返答できないので。


「いつもユリアナ様が『殿下、もっとお話しなさいな』って優しくうながしてくださっていたのに」


 侯爵令嬢がユリアナ嬢の事を思い出していくように話していた。

 他の人からも言われていることを、ここでも言われるなんて。


「ユリアナ嬢は、殿下の言葉を引き出すのがお上手でしたのに」


 さらに侯爵令嬢は、ユリアナ嬢の事を褒めている。


「レオポルド殿下、今日はなんだか、お疲れですか?」


「ブッ!」


 飲むしか出来なかった俺を見ながら、そう言い放つ令嬢。

 思わず紅茶を吹き出してしまった。

 疲れているのは、確かだけど。

 孤児院へ行って、会議に参加して、大使と昼食を食べたからな。


「ユリアナ様の社交術しゃこうじゅつが恋しいですわ」


 令嬢全員がクスクスと笑いながら、俺を眺めている。

 しかも何人かは、ルイッツホーフ家の方向を見ていた。


(俺、ただ隣に座って頷いているだけでよかったのか!?)


 ユリアナ嬢が重要だったわけなのか?

 気まずい雰囲気のまま、茶会は終了していった。


「はぁ~」


 執務室に戻ると、俺は思いっきりため息を吐いた。

 室内にいたクレア嬢やレーナに思いっきり聞こえるような音量で。


「聞こえていますよ、殿下」


 呆れながらレーナが俺を見ている。


「申し訳ない」


 だらんとしながら、返事をする。


「殿下、外出中も王宮の事務は代わりに私が回しておきました。外交文書のドラフトも完成していますよ」


「ありがとう。感謝する」


 クレア嬢も有能なんだな。

 俺は力が抜けるような感じで返事をした。


「子爵令嬢として、少しでもお役に立てればと」


 そうだよな。

 彼女も令嬢だったな。


「かなり疲れているんですね」


 苦笑いしながら、話しかけた。


「ああ」


 俺も乾いた笑みを見せて言葉を発していく。


「ユリアナ嬢がいなくなって、こんなに苦労するなんて……俺は、今まで何してたんだ?」


 婚約破棄してから、こんな体験をするなんて思わなかった。

 むしろ今までは楽していたんだなって、始めて思った。


「殿下、少しずつです。ユリアナ様の支えの大きさを、今実感出来たでしょう?」


 クレア嬢が優しく俺へ話しかけていく。


「ああ。彼女がいないと、俺はただのポンコツ王太子だった」


 楽な方向に逃げていて、推しであった事を忘れて。

 そんな彼女と婚約破棄してしまうなんて。

 ポンコツで愚かでしかないのを、改めて自覚してしまった。


「明日も公務がございますよ」


 にこやかに俺を見ながら話していく。

 その言葉には、はっきりと圧があった。


「まだ続くのか」


 弱々しく言葉を。

 またため息が出てきてしまった。

 王太子でいるから、止まらないだろうな。


「でも殿下は今日、ちゃんと立ち向かいました。それが、変わった証拠の第一歩です」


 クレア嬢は優しく微笑み、俺の肩を軽く揉んでいた。


「そうだな。選ばれなくても、俺はここにいなきゃいけない。明日も、頑張る」


 言葉の最後は、抜けるような声になっていたが。

 俺は拳を握って、明日への覚悟を決めた。

 ユリアナ嬢に届かなくてもいいから、変わらないとという気持ちで。


 でもーーこのままじゃ、ユリアナ嬢に届かない。

 次は、もっと心のこもった何かが必要だ。

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