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王太子に転生しましたが、何故か悪役令嬢に土下座をしました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


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11/30

第11話【近いうちは翌営業日】

【書記官 ジュゼッペ視点】


「外務卿《がいむきょう》、お呼びでしょうか」


 この日の昼下がり、私は外務院《がいむいん》に呼び出された。

 どうしたのだろうか。


「モンペリエ王宮書記官《おうきゅうしょきかん》、突然ですまない。実は、外交文書《がいこうぶんしょ》がルイッツホーフ公爵家宛《こうしゃくけあて》に送られてね」


 ルイッツホーフ家。

 我が王国でも有力な公爵家。

 その令嬢《れいじょう》であるユリアナは、先日まで王太子《おうたいし》であるレオポルド殿下《でんか》の婚約者《こんやくしゃ》だった。


「何か問題があったのでしょうか」


 王家から出された国内の公爵《こうしゃく》や侯爵《こうしゃく》宛の外交文書は、外務院を通して出される。

 それ自体は問題ない。


「ああ。その外交文書は、レオポルド殿下《でんか》から公爵令嬢《こうしゃくれいじょう》のユリアナ嬢個人(・・)へ届けられていてね」


 婚約破棄した関係であるが、何故個人宛に外交文章が。

 確かに何か問題が起きている可能性がある。


「先程、ルイッツホーフ家使用人のサルチャク・ウール氏より、外交文書から私信《ししん》への取り下げを要請してきた。回答は公爵家の規則《きそく》に則《のっと》って明朝《みょうちょう》までにすると」


 外交文書を私信にしてほしい?

 どういうことなんだ。


「封筒は外交文書用だったし、王家の正式な印も押されていた。だから、そのまま送ったんだが」


 もしかして間違えたのだろうか。

 実物を見ていないので分からないが。


「侍女のレーナ・ニコシアが、封筒と印から判断して届けたらしい」


 変に質問しないよな。

 完璧に形が決まっているなら、信じるだろう。


「殿下に状況を確認して、こちらに伝えてほしい」


「分かりました」


 面倒《めんどう》なことになったな。

 だがやらないと。


(形式だけが先に走る。それが一番、厄介《やっかい》だ)


 とりあえず王宮へ戻って、文官《ぶんかん》のガスペリにこの事を伝えた。


「さっき外務院から照会《しょうかい》があった」


「何があったんだ?」


 ガスペリはそう疑問に思っている。


「ルイッツホーフ家に外交文書が届いた。差出人は殿下で、外交文書用の封筒に王家の正式印《せいしきいん》もあった。ただ、ルイッツホーフ家側は明朝までに回答はするが、外交文書を私信扱いにしてほしいという内容だ」


「それは面倒な事だな」


 話を聞いて、そう感想を口にしていた。


「ちょっと殿下に訊いてきてくれるか?」


「はい、了解です」


 彼はそのまま行ってしまった。

 そしてしばらくして、ガスペリは戻ってきた。


「殿下からも私信扱いにしてほしいと。間違っていた模様です」


「ありがとう」


 私はまた外務院へ行った。

 報告をするために。


「私信扱いに訂正《ていせい》か、分かった。ボリス陛下《へいか》へ報告書《ほうこくしょ》を書いてくれ」


「分かりました」


 外務卿は頷いて外務院《ここ》での話は終わった。


「殿下の”私信”は、時々国を揺らす」


 そう外務卿は呟《つぶや》きながら。

 とりあえず私は報告書を書き、陛下の執務室《しつむしつ》へと届けていく。


「陛下、よろしいでしょうか」


 私は執務室にいた陛下に、今回の報告書を届けた。

 神妙《しんみょう》な面持《おもも》ちで見続《みつづ》ける陛下。


「誰が、なぜ、これを許可した?」


 次に開いた言葉はそれだった。静かで、疑問《ぎもん》に思っているようだった。

 こっちに質問しているのと両方で。


「形式上《けいしきじょう》は、王太子殿下ご自身《じしん》の裁量《さいりょう》です」


 とりあえず、当たり障《さわ》りのない言葉を伝えた。


「中身は?」


「誰も読んでおりません」


「…………」


 陛下は何も答えなかった。

 読まれていない。それが、最悪だ。


「分かった。ご苦労だった。では、下《さ》がって良《よ》い」


「はい」


 私は一礼《いちれい》し、執務室を後にした。




【ユリアナ視点】


 この日の昼時。

 わたくしは昼食を取った後、侍女《じじょ》のアレリアに淹《い》れてもらった紅茶を飲んでいた。

 王宮へは行かなくなって、何となく落ち着いていたのもあったが。

 殿下《でんか》は、公務で迷われていないのか。それは気がかりだけど。失敗をしてしまわないのかというのだって。

 いえ、わたくしは殿下に捨てられた。

 ただそれを拾いに来ている。

 そんな方の心配なんて、必要ないのに。

 無いはずなのに。


「お嬢様、王宮からの書状です」


 使用人《しようにん》のサルチャクが少々慌てた様子で一枚の封筒を持ってきた。

 宛名はわたくし、差出人は殿下。

 手渡された瞬間、通常の私信とは違うのを感じた。

 封筒が違っている。

 わたくし宛に送るはずの、色と装丁。

 そして封蝋《ふうろう》。


「王家の印、ですのね」


 正式なもの。

 それがはっきりとした、外交文書だって分かった。

 私信ではない。


「何故、今頃《いまごろ》になって送るのかしら」


 婚約解消《こんやくかいしょう》の正式書類は既に届いている。

 なのにわたくし宛に何を送ろうというのか。

 そのために、わたくしは開けられなかった。


「誠意、なの?」


 予想できるとすれば、それしかない。

 昨日の行為も合わせて、殿下がしようとしているのは、わたくしへの謝罪。

 そう予想し、一拍《いっぱく》置いて、開けてみることにした。

 中に入っていた便箋《びんせん》には、殿下からの文章が書かれていた。


『ユリアナ様。

 私は婚約破棄にあたり、説明を放棄《ほうき》しました。

 あなたの時間・尊厳《そんげん》・信頼を損ねました。

 許しは求めません。

 次は”行動”で示します。

 面会の可否はあなたの判断に委ねます。

 可能であれば、近いうちにお返事をいただければ幸いです』


「やはりそうでしたのね」


 何故、外交文書にしたのだろうか。

 外交文書にすることで、わたくしから許しを得《え》るため?

 この封筒で王家の印を押せば、確実に許してもらえると。わたくしは許さざるを得ないと。

 そんなことをしなくていいのに。

 でも、間違えた可能性はあるのだろうか。

 内容は確実に私信だから。


「王家の印だけ押して、封筒だけ間違えた、のかしら」


 宛名がわたくし本人。

 むしろその可能性がある。


「……殿下は失敗してしまったのね」


 これが私信であるのなら、わたくしに送る封筒を誤ったという事。

 失敗するなんて、わたくしが注意した事なのに。

 届かなかったのかしら。

 こんな事で、殿下にはわたくしが必要だって思わせないで。

 まだ許せるわけがない。


「とりあえずサルチャク、これを外務院へ」


 わたくしはとりあえず私信扱いに変えてもらうように、依頼をする文書を書く。

 外交文書ではないのだから。

 後始末《あとしまつ》をしないと、問題が大きくなる。


「後、回答は明朝までにすると伝えて」


「畏《かしこ》まりました」


 彼には外務院へ行ってもらうことに。

 明朝は、ルイッツホーフ公爵家《こうしゃくけ》の事務規定で定められている事。

 『近いうち(・・・・)』と書かれている文書には、翌営業日で対応すると。

 これは、殿下が書いている。

 わたくしが期限を決めたものではないから。


「さて、返信をしませんと」


 文章で届けられたのならば、同じく文書で返さないと。

 それにわたくしが今向かえば、あの姿勢をして気持ちを押し切られるだろう。

 許してしまうかもしれない。

 だからこそ、わたくしは便箋を取り出して書いていく。

 長く、ではなく短く。

 感情を伝えないで。


『殿下。行動とは、まず”正しい封筒と宛先”を選ぶことです。そして王家の印でわたくしの人生に期限を付けないでください』


 王家の印を押す方と、わたくしの人生を語ることは出来ないから。


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